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ソードアートオンライン 無邪気な暗殺者──Innocent Assassin──
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〜銃声と硝煙の輪舞〜
少女の葛藤
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招きしているようにもとれる。ただ、細くしなやかな身体は半身になっており、言外に彼女が戦闘態勢にシフトした事実を突き付けていた。

――――と。

「……ダメ、テオドラ。どいて」

ぐいっと。

背後から伸びた手に押しのけられる。

マグナテリウムはすでに再突進の予備動作(プレモーション)を取っている。一瞬の溜めから得られる爆発的な突進力を惜しみなく投資し、こちらを破砕せんと狙っているのだ。

その緋色の眼光を真っ向から受け止め、そして跳ね返すのは小柄な水妖精の少女だった。

「ボクが……、やらないと」

どこか鬱々とした口調で呟かれた言葉を聞いたテオドラは、可及的速やかに行動に移った。

すなわち。

「ちょっと頭冷やせっつってんだろゴルァ――――ッッ!!」

ドバッ!!という音とともに、世界がはじけ飛ぶ。

巨大熊でさえ呆気に取られたように突進を中止するほどの勢いで薙がれた回し蹴りは、綺麗にユウキの鳩尾にクリーンヒットした。

ALOは基本的にプレイヤー間でのPK――――殺し合いを容認している。パーティさえ組んでいないテオドラの不意の一撃は、ただでさえ後衛職に収まりがちなウンディーネのHPを七割方吹っ飛ばす。

潰れかけのカエルみたいな声を漏らす少女に、彼女の正体を知っている者からすればまさしく刃の切っ先に相当する人差し指の先を突き付け、完全に忘れ去られて逆に困惑している熊のほうなど無視して、テオドラは言葉を続けた。

「い・い・か絶剣!ぐちぐち悩むのがお前のいつものやり方か?違ぇだろうが!悩むのはシゲさん(ブレイン)だけで結構!脳筋(あたしら)は拳でオハナシが本分!」

お前は剣だけどな、と。

そこで初めて、にっと快活な笑いが女性の顔に滲み出る。

次いで、音さえも簡単に置き去りにするほどの速度で、振るわれた拳がブレた。

爆音。

轟音。

その音がきちんと耳に入り、鼓膜を震わせ、脳が認識する頃には、すでに『的』は『骸』に変わっていた。

真正面から、どう考えても拳の射程外に屹立していたマグナテリウムは、巨体の右半分を全て消し飛ばされていた。一瞬、本当に一瞬、自分に何が起こったのか解からないとばかりに短く啼くと、ぐらりと体勢を崩す。しかし地面にめり込む前に、幾千のポリゴンの欠片となって爆散した。

ゆらりと右拳から闘気のような過剰光を放ちながら、チョコレート色の肌を持つ女性は言う。

「ガキが大人ぶんじゃないよ。ガキはガキらしく、せいぜい足掻けティーンエージャー」

「……うん」

何もかも見透かしたような大人の言葉に、少女はただただ頷くしかない。テオドラの言葉には、それだけの説得力――――いや、納得させられるだけの何かがあった。

紺野木綿
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