響ノ章
金打
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の提案を飲めば望みを叶えると。それで、お前は約束を守ってくれるのか」
「寧ロ願ッタリ叶ッタリダ。喜ンデソノ約束取リ交ワス」
「では、どうする。言葉で言ったきりでは何か味気ない。それに、破られては困る約束事だ。金打をしよう」
「金物ガアルノカ?」
そう言ってまた少しばかり笑った姫に、私は少しむきになった。
「日向、軍刀持ってこい」
「正気か提督」
「少し怪しい。だが、持ってこい。場所は提督執務室の中だ」
「後悔しても私は知らんぞ」
そう言って日向は駆けていった。
「正気、提督」
「私モ言ッテオクガ、正気カ?」
伊勢、ついでに姫も私に同じことを言う。伊勢は兎も角、挑発してきた姫に言われる筋合いはない。私は腕を組んで、日向の到着を待った。
そうして待つこと二、三分、日向は言ったとおり軍刀を持ってきた。私はそれを受け取る。これは私のものだ。柏木提督の物も先日まであったが、既に遺族のもとへ送られた。二振りあったほうが様になっただろうが、私は兼用刀なので生憎一振りしかない。
「一振りしかないが金打をする。金打の仕方、分かるか」
徐ろに顔を横に振る姫の前で、私は寝かせた軍刀の鯉口を切り刀身をわずかに出す。膝を立て刀身を縦にしてからそれをまた仕舞った。独特の金属音が僅かに鳴る。
私はまた鯉口を切り、用心してそれを姫へと渡す。素人に鯉口を切らせるのも酷だ。
「やり方は見ての通りだ。ただ、生半可な気持ちではするなよ」
「金打ノ持ツ意味クライ、知ッテイルツモリダ」
金打とは、決して破らぬ誓いの儀式である。出した刀身は相手が破れば切ると、同時に自身が破ることあれば切腹するという意味もあると言われる。刀剣の類でするのは男のもので、女は鏡を使ったというが私に合わせてもらった。
姫は軍刀を手に取り一度自身の前で寝かせた状態で持ってから、私と同じように膝立ちになり刀身を立てた。だが姫はそれをすぐに仕舞わず、言葉を放つ。
「蛮勇ゾ。儀礼剣ノ類ナレド金物ヲ渡ストハ」
「舐めるなよ。打刀だ」
驚きの顔をするのは目の前の姫だけではあるまい。
「私モ驚キヲ越シテ呆レルゾ。大層ナ自信家ダ」
「何、私は自分を信じているわけではないぞ。私の後ろに立つ者達を信用している」
「ダトシテモ。敢エテ言ウガ指揮官ノ発想デハナイ……ソンナ生キ方ヲスレバ早死スルゾ」
それは、人が言うのとは違った重みがあった。当たり前だ。姫、深海棲鬼は、一度死んだ艦娘に他ならないのだから。死というものに、人類の誰よりも詳しいだろう。
「結構。部下が死んで逝くのに上官だけ生きているのも滑稽だ」
その言葉は、姫の顔を顰ませるのに十分だった。
「見損ナウゾ提督ヨ。オ前ハ死ナズニ部下ヲ有効活用スル為ニ居ルノデハナイノカ。死ニニゲルカ」
「否。私も部下を有用に使う
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