暁 〜小説投稿サイト〜
逆さの砂時計
べぜどらくんのしっぱい
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 全部を買う訳にはいかないし、仕方ない。
 「この店のおすすめのパンは?」
 店員の女に尋ねてみれば、女は満面の笑みを浮かべて答える。
 「はい! 当店では、焼き方に拘りましたロールパンをぜひ、ご賞味いただきたいです!」
 ろ……ロールパン、だと!?
 慌てて商品を確認する。
 余計な物が何も練り込まれていない、シンプル イズ ベストフォルム! 素晴らしい!
 見た目の焼き加減も、やや卵系の丸っこい形も申し分無し。完璧だ。
 トレーにそっと乗せて……これは……ふんわりと柔らかでありながらそのまま潰れるのではなく、やんわりと弾力を感じさせる手応え。生地の密度が程好い証拠だ。これは期待できそうだ。
 「ありがとうございましたーっ」
 ロールパンは、そのシンプルさ故に素材と掛けた手間が直で味に伝わる……職人にとっては難しい商品だ。それをすすめるとは、かなり腕に自信があるのだな。試してやろうじゃないか。
 「……ふん」
 なるほど、悪くない。
 直に持ってみた感触も、噛んだ瞬間の歯の通りも、実に見事。
 噛めば噛むほどほんのりと鼻を抜けるバターの香りは、くどくもなく、足りなくもなく。最後まで絶妙な均衡を保って喉に流れていった。
 確かに、これは旨い。
 だが、最高級と評するには塩加減が少々惜しい。
 高級ではあるが、これでは……
 「!! あっちか!?」
 これで二十軒目だ。これだけ回っても見付けられないとは、さすが聖地。侮ってたのは俺のほうか?
 いや、まだまだだ!
 この手に……この口にするまでは絶対に諦めないぞ!


 「……どうしたんですか? その顔。憔悴し切ってるみたいですけど……」
 街に着いた時は昼間だったが、気付けば辺りはすっかり真っ暗。
 待ち合わせた入り口で、クロスツェルが目を瞬いた。
 「……なんでもない……」
 そう……なんでもない。
 普通にパンを食べ歩きしまくって。やっと見付けた香りの元。
 その店が、営業時間を過ぎていただけ……。
 辿り着く数分前に、終わってただけだ。
 「? とりあえず宿は確保しておきましたから、行きましょう」
 「……ああ」
 さすがに、パン屋だけで三十八軒も在るとは予想外だった。何処もそれなりに旨くはあったが、食い過ぎで気持ち悪い。
 違うと分かってても試したくなるんだよ。仕方ないだろ。
 あー……今日はもう寝よう……。
 「あ。そうそう」
 先を歩くクロスツェルが、何かを思い出したように突然振り向いた。
 「この街では卵料理も有名なのだそうです。やはり、水が良質な土地は食材が豊富ですね。ベゼドラが好きな卵焼き入りサンドイッチも、たくさん用意してくれてますよ。宿で」
 「……なに?」
 「ほら、あそこです。一階でパン屋、二階で
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