ゼロの使い魔編
第十五章 忘却の夢迷宮
第七話 笑顔という仮面
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もりで言ったのだ?」
ジョゼフが何故それを知っているのかという疑問はあったが、それ以上に何故今そんな事を聞くのか分からず、若干混乱しながらも士郎は素直にその疑問に応えた。
「? どうもこうもない。そのままの意味だが」
「―――綺麗事はいい」
「……」
声を荒げたのでも大声を出したわけでもない。
しかし、静かな声ながら、その中に込められた怨念じみた怒りが、士郎を押し黙らせた。
「競い、奪い、争う間にあって、そのような事は有り得ない。例え相手が親であろうと、友であろうと、兄弟であっても……いや、争う相手が己に近しければ近しいほど、勝利に笑う者を前に、負けた者は誰しもが怒りを燃やし、憎しみを抱くものだ。笑える筈がなかろう」
「……否定はしない」
「はっ、『否定はしない』と、まるでそれだけではないような言い方だな? ある訳がないのだよ“ガンダールヴ”。お前がどれだけ“夢”を“理想”を語ろうとも、そのような事はありはしないのだ。例え真剣勝負でなくとも、ただの遊びであっても駄目だ。最初は小さな苛立ちであっても、敗北を重ねるうちにそれは次第に大きな憎しみへと変わる。勝利に笑みを浮かべる顔を、悔しげな顔に歪ませたくなってしまう」
静かに語り士郎を見つめるジョゼフの目は、歪んだ異様な光を宿していた。
黄金の短槍に貫かれた腕から止めどなく流れる血は、確実にジョゼフの命を削っている筈なのだが、弱った様子は一切見えない。それどころか時が経つ程に、いや、話が長くなるにつれ、ジョゼフの声が、気配が、次第に狂気じみた色が濃く、強くなっていく。
「それにもし、仮にそのような事があるのならば……何故、おれはここにいる?」
「何?」
士郎を見上げるジョゼフの口元が釣り上がる。
それは一見すれば笑っているように見える。
しかし、それを見ても誰も笑っているとは言わないだろう。
何の感情も感じさせない、文字通り仮面のような笑みを口元に貼り付けたジョゼフが、士郎を見つめる。
その、鈍色に澱んだ瞳で。
「そうだ。そうだとも……おれは一度足りとも“幸せ”を感じたことはなかった。ただの一度もだ。いつもいつも苛立ちしか感じなかった。憎しみさえ感じだ。幸せだと? 馬鹿を言うな。勝利に喜色を浮かべ、愉悦に浸る姿を見て、誰が笑える? 笑う勝者を見て敗者が幸せになる? 何処の夢物語を語るのだ。女子供でも口にせんわそのような甘い世界。虫唾どころか吐き気がする」
血が流れすぎたためか、笑う仮面を口元に貼り付けたまま語るジョゼフの顔はその髪色と同じく青ざめていた。しかし、その口からは止まる事なく湧き出るように憎しみに染まった言葉が流れ続けている。
「ああそうだ。やっとわかったぞ“ガンダールヴ”。何故おれがこうも貴様
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