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剣の丘に花は咲く 
ゼロの使い魔編
第十五章 忘却の夢迷宮
第七話 笑顔という仮面
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襲ってきた際に倒しと思っていたが、ここにいるということは倒しきれなかったか、自分が本体と思っていたものも偏在(ユビキタス)で創り出したものであったかだ。

「前門の虎、後門の狼―――か」
 
 厳しい戦況を前にしながら、しかし士郎は落ち着いた様子で囲む二人を警戒しながら、遠巻きに自分たちを見つめる二人に声を掛けた。

「アンリエッタ、ぎりぎりまで離れていろ。アニエス、出来るだけそちらに被害が及ばないようにするが、どうなるかわからん。直ぐに動けるようにしておけ」
「は、はいっ!」
「っ、この―――、くっ、わかった……負けるなよ。お前が負ければどうなるかぐらいわかっているだろう」

 素直なアンリエッタの返事と、脅しか発破を掛けているのか判然としないアニエスの声を耳にした士郎は、僅かに口元を緩めるとデルフリンガーと黄金の短槍を握り直した。

「ふっ―――任せろ」
「「―――ッ!?」」

 ドンッ!! と強化された甲板の板が砕かれる音が響いた時には、既にその場に士郎の姿はなかった。
 ほぼ並行してジョゼフの姿も消え、同時にコンマ数秒前までジョゼフが立っていた今は無人の空間にデルフリンガーが振り下ろされた。

「ちっ」

 小さく舌打ちをする士郎の身体に影が落ちる。士郎は競泳選手のように前方に飛び込むと、甲板に手をつき器用にくるりと一回転しその場から距離を取った。立ち上がった士郎の足元がぐらりと揺れる。先程まで士郎が立っていた位置に、半径三メートルはあろうかという巨大なすり鉢状の穴が空いていた。長剣の形をした杖を片手で振り下ろした形で止まっていたワルドは、ゆっくりと杖を持ち上げると自身の肩に乗せた。

「流石ダナ“ガンダールヴ”。ソノ動キ、“加速”ニ引ケハ取ラナイナ」
「喋れるのか?」
「オ陰様デナ」

 剣状の杖を肩に乗せた状態で、ワルドは器用に肩を竦ませてみせる。
 
「そう―――かッ!!」

 耳をつんざくような衝突音が響き、周囲に船体を破壊するほどの衝撃が発生する。発生源は士郎が握るデルフリンガーとワルドが握る剣状の杖の衝突が源であった。
 士郎の“加速”にも迫る速度での攻撃であったが、ワルドは慌てるようすもなく振り下ろされたガンダールヴを剣で押さえ込む。

「反応がいいなっ!!」
「人ヲヤメタオ陰デナ―――力モ又同様ダッ!!」

 鍔迫り合いから一転、ワルドが士郎の体を吹き飛ばす。
 吹き飛ばされる先には誰もいない。背後を見て確認した士郎は、直ぐさま体勢を整え―――黄金の短槍を背後に突き出した。

「っぎ?!」
「ただ速いだけでは俺は刺せんぞっ!」
「っが!」

 士郎が前を見ながら脇の間を通すように突き出した黄金の槍は、狙いたがわず短剣を握るジョゼフの右腕を貫いていた
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