暁 〜小説投稿サイト〜
剣の丘に花は咲く 
ゼロの使い魔編
第十五章 忘却の夢迷宮
第七話 笑顔という仮面
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怒りに赤く染め上げ、激しい声を士郎に投げるジョゼフ。
 哀しみをもう一度感じたいがため、世界を炎に包まんとさえした自分が、何故ただの言葉にこれだけの怒りを抱いているのか疑問を抱くことなくジョゼフは叫ぶように士郎を責めた。
 矢継ぎ早に士郎を責める言葉を投げ掛けるジョゼフの姿は、直接前にしていない遠巻きに見ている者たちにさえ身を竦ませる迫力があった。
 身を削られるような気迫と言葉。
 
 だが何故か、アンリエッタには追い詰められているのはジョゼフのように感じていた。
 勝敗を決する決めて(火石)を手中にた圧倒的有利にいる筈のジョゼフが、何かに怯えているようにも見えていた。
 そうアンリエッタが思った時、



「―――笑っていたのか」



 噛み付かんばかりの罵詈雑言がピタリと止まった。
 小さな。
 士郎の呟きにも似たたった一つの言葉が、ジョゼフの口を閉ざした。
 何故、言葉が止まったのか本人であるジョゼフにさえわからなかった。
 ただ、遠巻きに見ていたアンリエッタには、ジョゼフの顔に一瞬怯えのようなものが走ったようにも感じた。

「な、なんだと?」
「本当に笑っていたのかと聞いたんだ。それに俺は何も全ての笑顔に幸せを感じるとは言っていない。本当に心から浮かんだ笑顔は、誰をも幸せにすると言ったんだ」
「そんな事はない……笑っていた。そうだ。笑っていたのだ。いつもいつもシャルルは笑っていた。おれは一度足りともシャルルが悔しげな顔を浮かべた姿を見たことはない。そう、父上が次の王におれを指名した時も、シャルルはおれに『おめでとう』と屈託な笑みを見せたのだ……そう、だから、だからこそおれは……おれはシャルルを殺したのだ」

 ジョゼフの身体が震えていた。
 怒りに染まっていた筈の瞳も戸惑うように、怯えるように震えていた。
 見て見ぬふりをしていた澱の底に隠れていた真実を見たくないと震えていた。
 
「人は幸せを感じた時にだけ笑うわけではない」
「―――やめろ」

 怯えるようにジョゼフの身体が縮こまる。

「何かを隠す時にも笑う。怒りを、哀しみを、憎しみを、劣等感を隠す為の仮面として笑う時もある」
「やめろ」

 息を荒げ、青ざめた顔で士郎を縋るように見つめる。

「もう一度聞くぞ。お前のいう“シャルル”は、本当に笑って―――」
「やめろおおおおおォォォォォォォッ!!!」
 
 怒声のような、悲鳴のような、泣いているかのような、そんな複雑な思いが混じった声が上がり、ジョゼフが杖を振り下ろそうとしたその瞬間だった。ジョゼフの右手の指にはまった指輪―――“土のルビー”が光りだしたのは。
 そして、茶色の光はジョゼフと、杖を振り下ろそうとするのを止めようと直ぐ傍まで接近していた士郎
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