3部分:第三章
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第三章
「助けて下さい」
「それは仕事の依頼ね」
「はい」
声は沙耶香の問いに答えた。
「その通りです。報酬は用意しています」
「そう。高いわよ」
「はい、それだけはあります」
その切実な言葉での声であった。
「貴女が望まれるだけのものをです」
「お金のことはわかったわ」
沙耶香は正面を見たままだった。そのまま述べるのであった。
「それはね」
「では受けて頂けるのですか?」
「詳しい話を聞きたいわ」
沙耶香は今度はこう言ってきたのだった。
「詳しい話をね」
「それをですか」
「場所を変えましょう」
沙耶香の声に微かな笑みが宿った。
「場所をね」
「一体何処に」
「東京で眠らない場所は多いわ」
今度はこんな言葉を出したのであった。出したうえでカクテルを飲み干した。そうしてそれを自分の前に置いた。ことり、と木とガラスが触れる音がした。
その音が終わった時にだった。沙耶香は声の方を見た。すると歳を感じさせない凛とした美貌の女性が切実な顔でそこに立っていた。
短い肩までもない黒髪を奇麗にセットしている。服はダークブルーのスーツである。タイトスカートは膝までである。背は一六〇程度でありスタイルも中々のものである。その美女が彼女の左に立っているのであった。
「貴女の名前は」
「時任といいます」
こう名乗ってきたのだった。
「時任亜由美です」
「時任さんね」
「はい」
沙耶香の言葉に頷く亜由美だった。
「それが私の名前です」
「わかったわ。では時任さん」
沙耶香はゆっくりと立ち上がった。そうして彼女の前に来て小さく囁くのであった。その囁いた言葉は。
「夜は長いわ」
「夜は?」
「そうよ。長いわ」
言葉と共に妖しい言葉も出してみせるのだった。
「長いけれど」
「あの、一体」
「場所を変えましょう」
話がわからない彼女に今度はこう言ってみせたのだった。
「いいかしら、それで」
「場所をですか」
「そうよ。場所をね」
言葉を再び出す。次に述べられた言葉は。
「貴女は今夜は大丈夫かしら」
「娘は今日は母の家にいます」
亜由美の最初の返答はそれだった。
「家は私一人ですし」
「一人なのね」
「はい。後はメイドさんや執事の方だけですが」
「あら、そういう人もいるのね」
ここで沙耶香は彼女がそれなり以上の資産を持っていることがわかった。そうしてそれと共にあることも察したのである。それは。
「それに御主人は」
「主人はいません」
そうだというのだった。
「主人は娘が生まれてすぐに亡くなりました」
「そうなのね」
「交通事故で」
それでだと答えるのだった。
「ですから」
「そう。わかったわ」
それを聞いてさらにだった。
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