暁 〜小説投稿サイト〜
逆さの砂時計
忘却のレチタティーボ 5
[1/5]

[8]前話 [1] 最後 [2]次話
 誰かが泣いてる。とても悲しい声で、ずっと謝ってる。無力さを嘆くように、自分を責めて、悔いて。
 「……何故、泣いているのですか?」
 使われなくなった教会の前。閉ざされ、百合の花が絶え間無く毎日積まれて行く場所。
 其処には誰も居ない。人間の目にも耳にも無人の空間へ、長い白金の髪をふわりと風に流した女性が語り掛ける。
 「お前……」
 女性の耳にだけ聴こえる男性の声が、女性に敵意を表した。気配でそれを感じる。憎悪と嫌悪と……少しの後悔が混じる声。
 「どうして、だと? こんな不完全な封印にしたお前の所為だ! 何故、信徒が居なくなれば弛む結界なんかにした!? お前ならもっと強固で完璧な仕組みを作れた筈なのに……その所為で俺は余計な感情を知ったんじゃないか!!」

 世界なんかに興味は無い。争い? 勝手にやってくれ。封印? 好きにしろ。俺はもう、面倒臭いのはお断りだ。
 そうして眠りに落ちて、気付けば現代で意識だけが解放されていた。同じ場所で眠っていた女悪魔は嬉しそうに餌を探していたが、どうでもいい事だ。人間に用は無いし、悪魔が奴等をどうこうしたって関係無いんだよ。

 ……あの子供はどうして毎日来るんだ? 晴れても雲りでも雨でも雪が降っても。雷が鳴っても嵐が来ても、体調が悪くても。教会が閉じられた後まで、飽きもせずに同じ願い事ばかり。白百合は信仰の象徴の一つだからまだ解るが、毎日通った所でそんな願いを女神が叶える訳もないだろうに。

 ……また親に叱られたのか。鈍臭い子供だな。学友にも苛められてるのか。情けない奴だ。何もできない? そうだろうな。見るからに莫迦っぽいし、子供の域を出たら世辞の一つも貰えなさそうだ。一人で泣き喚いて、それでどうにかなると思ってるのか。建設的な発想が欠片も出て来ない幼稚な思考じゃ、褒められる筈もないだろう。つくづく愚鈍だな。
 そもそも方向性が間違ってるんだよお前。神頼みに勤しむくらいなら、なんでもっと他人と接しようとか考えないんだ? 一人で解決できる物なんか、お前らの世界では限られてるだろうが。何処に向かうにしろ、教えも乞わずに成長できるのは一部の突き抜けた有能な奴だけだ。人間が何の為に集団生活の知恵を得たのか考えてもみろよ。まずは其処から見直せっての。

 阿呆だな……。自分がどんな立ち位置に居るのか解ってるなら、対処方法だって本当は解ってる筈だろう。そんなに人間が恐いのか。其処まで他人が信用できないのか。
 いや……信用できないのはお前自身か。それもそうだろうな。お前は誰かの結果を見るばかりで、その人間の努力を見逃し続けたんだ。お前が誰の現実にも目を向けなかった分だけ、誰もお前に興味を示してない。一人きりで得られる自信なんかありはしないんだよ。もっと早く素直に、何もできないままでも誰かに手を
[8]前話 [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ