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逆さの砂時計
忘却のレチタティーボ 5
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重ね……次の瞬間。
 見える景色が、旧教会の敷地から山奥の廃墟へと変わった。

「ここは?」
「創世の女神が名乗りを上げた最初の地。幼く愚かな私が道を誤った起点。お願いします、ルグレット」

 淡く薄い緑色の光が、女性の全身を包む。
 膝裏まで伸びていた髪が、耳の後ろまで一気に縮んだ。
 長衣の大きさは変わらないまま、体つきや面立ちが幼くなって。
 開いたその目には、純粋な疑問が浮かび上がる。

「……え? あ、あれ? 私今、畑仕事をしてたわよね? 道具はどこ? また意地悪された?」

 畑仕事?
 意地悪された?

 少女は不思議そうに辺りをキョロキョロと見渡した後。
 目の前の男性に向き直って、首を傾げた。

「あの……貴方は、レゾ……じゃないわよね? さすがに」

 さっきまでのアイツとは、まるで違うな。
 言動の端々が微妙に引っ掛かるが……どうでもいい。

「忘れてしまえ。全部」
「え?」

 男性の左手が、少女の額を覆う。
 白い光が少女の目に反射して、弾けた。
 少女の両腕がだらりと落ちて、瞳から意思が消える。

「拾ってくれ、とは、言わなかったからな」

 自殺願望があるなら、おそらく放置されたいんだろう。
 何かに絶望したのか、単なる興味で人間として死んでみたくなったのかは知らないが。

「自由にするがいい。俺はステラを護れれば、他の奴はどうでもいいんだ」

 あんな思いは二度と味わいたくない。
 護れないのは、もう嫌だ。

 ステラ。
 君が迷い続ける道を、俺が一緒に歩いていこう。
 君は自分を信じられない、バカな迷子。
 俺が見ててやるから。
 ずっと見ててやるから。
 自分の足で出口を探すんだ。
 迷路の中だとしても、その道を歩いたこと自体がいつか君に力をくれる。
 君自身を作り、君自身の生きる力に変わるから。
 歩き方を忘れたら、少しだけ教えてやるから。

 ステラ。
 どうか、生きて。

「じゃあな」

 棒立ちになった少女を置き去りにして、男性は廃墟から跳び去る。
 街へ戻り、髪をバッサリ切り落として。
 関係書類を偽造し、人間のフリで書蔵館に職を持った。
 入所試験で歴代最高点を叩き出した結果与えられた特権を利用し、あえて人が少ない部所に席を置いて、元々居た職員は適当に人事異動させる。
 そうして、入所試験に訪れた私を、それとなく迎え入れて…………

 そうだ。
 仕事に対する姿勢を丁寧に、丹念に教え込んでくれたのは、貴方だった。
 私がどんなに初歩的な失敗をくり返しても、決して怒鳴ったり呆れたり、投げ出したりもしないで、こうであれと根気強く手本を見せ続けてくれた。

 貴方が仕事に厳しかったのは、
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