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逆さの砂時計
忘却のレチタティーボ 5
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になれば、可能性は生まれるから」
 「何の?」
 「私の存在の消滅」
 男性の声が一瞬、戸惑った。
 「……はっ……! 世界を跳び回って悪魔を駆逐し、人間共を従えたかと思えば、今度は自殺願望か。お前の考える事はさっぱり解らんな。だが、死んだら約束の果たしようがない。下らない提案だな」
 「それでも貴方は、この子を護る為の実体を取り戻せる」
 「……」
 ステラ……。あれからも毎日教会に来ては祈って、愚痴を溢しながらずっと一人で座ってる。来ないスイを探して、待って、泣いてる。学院卒業間近なのに、仕事探しも上手くいってないらしい。残っているのは、初めから能力不足だと諦めて足を向けなかった各役所と書蔵館くらいだ。全滅したら確実に落ち込むだろうな。
 「……分かった。約束しよう」
 男性の声を受けて、女性が百合を空に掲げる。
 薄緑色の大きな丸い光が女性の頭上にふわりと浮かんで……ぽろぽろと剥がれて消えた。
 中から現れたのは、真っ直ぐ長い銀髪で全身を覆って膝を抱えてる男性。
 「貴方を封印前に戻します。目覚めなさい、ルグレット」
 男性の声の気配が消えて。代わりに光の中から現れた男性が、氷色の目をゆっくり開いた。髪をさらりと払い、女性の背後から数歩離れた場所に降り立つ。
 「……手を」
 男性に振り向いた女性が真っ白な長衣の袖を揺らして、手を伸ばす。男性は黙って自らの手を重ね……次の瞬間、見える景色が山奥の廃墟と化した石造りの神殿に変わった。
 「此処は?」
 「女神が名乗りを上げた最初の地。愚かな私が道を誤った起点。……お願いします、ルグレット」
 薄緑色の光が女性の全身を包む。緩やかだった膝裏まで伸びる髪が、耳後ろまで縮む。面立ちも体つきも幼くなって……開いた瞳には、疑問が浮かび上がった。
 「……え? あ、あれ? 私今、畑仕事してたわよね? 道具は何処? また意地悪された?」
 畑仕事? 意地悪された?
 少女は不思議そうに辺りをキョロキョロと見渡して、目の前の男性に首を傾げた。
 「あの、貴方……レゾ……じゃないわよね、さすがに」
 さっきまでのアイツとはまるで違うな。言動の端々が微妙に引っ掛かるが……どうでもいい事だ。
 「忘れてしまえ。全部」
 「え?」
 男性の左手が少女の額を覆う。白い光が少女の瞳に反射して弾けた。少女の両腕がだらりと落ちて、瞳から意思が消える。
 「……拾ってくれとは言わなかったからな」
 自殺願望があるなら、恐らく放置されたいんだろう。何かに絶望したのか、単に人間として死にたくなったのかは知らないが。
 「自由にするがいいさ。俺はステラさえ護れれば、他の奴なんかどうでもいいんだ」
 あんな思いは二度と味わいたくない。護れないのはもう嫌だ。
 ステラ。君が迷い続ける道を
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