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鐘を鳴らす者が二人いるのは間違っているだろうか
30.金で買えるか買えないか
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男の所為でそれに失敗した。

 男は容赦なくこちらの胸ぐらを掴み上げる。
 憤怒に醜く歪んだ冒険者の顔面が視界に広がる。
 ほら、これだ。こうしていつだって暴力に訴えて人から物を奪い取ろうとする。

「返してもらうぜ……俺から盗んだ物『全て』な」
「全て……ですって?貴方から失敬したのはお金だけでしょ………」

 そう答えて、はっとする。
 違う――この男は金を盗まれたことを口実に、こちらの持っている全てのアイテムや金を全て奪い取るつもりだ。殴って、剣を突きつけて脅し、取れるだけ絞り出そうと考えているのだ。

「ほら、荷物全部寄越しな。何せ、『全部元々俺の物』なんだからなぁ」
「嘘だ!お前から盗んだのはたった5000コルぽっちの金貨袋だけだ!他の物はこっちの……!!」
「どうせ盗品だろう?なら、少なくともお前のモンじゃねえよなぁ……?このコソドロが!何ならそこの兄ちゃんにどっちが疑わしいか聞いてみるかぁ!?」

 さっきの男――浅黒い肌のフードの男の視線が背後から突き刺さる。

「なぁアンタ!どっちが本当の泥棒だと思う?正直に答えたら、『アンタにも分けてやるよ』。さぁ、どっちが答えてみな!」

 本当に、本当に――どうしてこの世界には味方がいないんだろう。
 通行人までも敵に回るのか?それほどこの世界は弱い者を排斥したいのか?
 悔しくて、情けなくて、でもどんなに手を引き剥がそうとしても力が足りなくて。

 余りに惨めな自分の姿に、涙が流れた。

「答えは簡単だよなぁ兄ちゃん?悪いのはコイツ――」

 瞬間――視界がぶれた。

「あぁ、イライラするぜ………偽善ぶった屑は大嫌いだがよぉ……テメェみたいに誇りの欠片もねぇ悪党ってのは同じくらい気にくわねぇんだよぉッ!!」

 気が付いたら、フードの男の背中が、自分を庇うように視界に広がった。

 錠前の引っかけられた外套がはためき、腰に差された短剣が引き抜かれる。
 そして、一瞬男の姿がブレると同時に、情けない悲鳴が上がった。

「ぎゃあああああああああッ!?手が……俺の手がぁッ!!」
「出血多量でくたばる前にポーションでも塗って、俺の視界からとっとと失せるんだなぁッ!!」
「ヒ、ヒィィィィィッ!!くそ、くそ!何でだよ……何で俺がこんな目にぃぃぃぃ!!」

 あの下卑た冒険者は、情けなくふらふらしながら腕を抑えて逃げていった。
 血に濡れたナイフから血を払って鞘に納めたフードの男が、ゆっくり振り返る。
 助けてくれたのだろうか――いいや、違う。
 この男はあくまで気に食わないから相手を斬っただけだ。

 残されたのは非力な金ヅルと屈強な男。結局略奪の構図は変わらない。
 もたもたと立ち上がり、身構える。
 さっきの攻撃
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