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ソードアート・オンライン〜Another story〜
現実世界
第148話 彼女の刃
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 そして、まるでスローモーションになっているかの様に、ゆっくりと右耳に当てた。


 更に暫くして……、須郷の手からモバイルがこぼれ落ちた。カタカタカタ、と震える身体。
白くなっていく髪と瞳。失禁したらしく、外気温が低い為ズボンから蒸気の様なモノも見えてきた。

 どうやら、彼にとって最悪の状況になったのだろう。





「前回とは違う。……犯罪の証拠、全ての記録は、もう既に送っている。そこは安心しろよ。……もう、本当に聞こえていないと思うがな」



 隼人は、そんな須郷に侮蔑の表情を見せると、背を向けた。警察への連絡は、もう出来ている。後は、彼等に任せればいい。

 これで、終わった。



『……こんなの……こんなの絶対認めちゃ駄目だから』



 思い返すのは、最後の彼女の一文。

「………」

 隼人は、こくりと頷くと、この場を後にし、和人が向かった方へと足を進めていった。


 これは、《彼女の矛》。


 ……少し、強力過ぎるかもしれないけど、あの時彼女が必死に抗い、正しいことの為に研ぎ続けた刃。それが、10年経った今、漸く……。



 もう、伝えられないだろう彼女に向かって、『やり遂げたよ』と心でつぶやきながら隼人は病院の方へと消えていった。








 そして、その駐車場から少し離れた所で見ていた者がいた。

「……後、数分で来てくれる様ですね」

 隼人の方を、心配そうに見つめていた1人の男が、ほっと胸をなでおろし、時計を見ていた。彼もまた、警察には連絡を入れていたのだ。……隼人と殆ど同じタイミングで。

 
 彼がここに来たのは、虫の知らせ……といっていい程の微かな予感だった。


 降雪で隼人や和人の2人がやや、この場に遅れてついた事は彼にとっては僥倖だと言えるだろう。和人や隼人が早くこの場についていたとしたら、最悪な展開になってもおかしくなかったのだから。それは、嘗て後悔した経験から来るものなのか、ただの偶然なのかは判らない。だが、判る事もある。

 想いを遂げることが出来たと言う事。

「隼人坊ちゃんとサニー……日向(ひなた)お嬢さん、その2人分の強い想いだったから、でしょう。……お前には判らない感情だと思うがな」

 すっと、視線を下へと向けた。そこには、両腕と両足を縛られた男の姿があった。口調も代わり、明らかに怒気を含んでいる。

「あんな想いは私も御面だ。……もう、二度と」

 彼の脳裏には憔悴し切る隼人の顔が頭をよぎっていた。毎日が楽しいと言ってくれて、自分に笑顔を見せてくれていた隼人の顔。家族も同然に接していた隼人の顔。それが絶望で彩られてしまった。
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