巻ノ八 三好伊佐入道その十三
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伊佐は目を瞬かせてだ、こう言った。
「傾奇者ですな」
「うむ、そうじゃな」
根津が伊佐のその言葉に頷いた。
「これはまた派手な者じゃ」
「はい、都に多いと聞いていましたが」
「安土にもまだおったのじゃな」
「これはまた」
望月は彼が手にしているその朱槍を見た、相当に大きな槍だ。
その槍を見てだ、望月は言った。
「見事な槍じゃな」
「あの槍を使って戦うか」
「そうであろう」
望月は由利にも答えた。
「だから持っているのであろう」
「そうじゃな、やはりな」
由利も望月のその言葉に頷いた、そして。
その槍を見つつだ、海野が男に問うた。
「御主、傾奇者か」
「・・・・・・如何にも」
男は小さく感情のない声で答えた。
「私はこの町を通った旅の傾奇者」
「そうか、やはりな」
「とはいってもある家に仕えていて」
男は海野に答えていく。
「名を白虎という」
「その髪の色と羽織っておる虎の毛皮からか」
「左様」
そうだというのだ。
「そう呼ばれている」
「そうなのか、しかし」
「しかし?」
「御主はこの安土におるがこれからどうするのじゃ」
「織田家には仕えていない故。ここに来たのは主から言われて仕事で来た」
「そうなのか」
「ただそれだけのこと。それ故に」
だからだというのだ。
「これで去る」
「少し待ってくれるか」
言い終えると踵を返そうとした白虎にだ、穴山が声をかけた。
「聞きたいことがある」
「それは何か」
「うむ、それはな」
穴山は踵を返そうとしたところで動きを止めた白虎に不敵な笑みを向けた。そのうえで彼に対して言うのだった。
巻ノ八 完
2015・5・31
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