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逆さの砂時計
忘却のレチタティーボ 2
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敬愛すべき仕事人間。昨日のは本当に何だったのか。慣れた分、こっちのほうが安心するけどね。
 あ。怒られるのだけは嫌よ、勿論。
 「はぁ……」
 室長が机の上に置いてあった何かの書類を手に取って眺め、溜め息を吐いてる。
 多分、お誘いの手紙だ。
 上司殿は、他部所どころか書蔵館本部からも引く手数多なんだよね。全部断ってるみたいだけど。
 こんな机二つと椅子二つ、書類入れ一つで一杯になっちゃう場末の狭い管理室より、もっと厚待遇な職場が用意されてるって言うのに……どうして此処に留まってるんだか。頭が良い人の考える事は解らん。
 「ステラ」
 「はい?」
 「今日も送る。俺の終業時刻まで此処で待機」
 「……」
 また、ですか?
 また、あの謎の言動をされるおつもりですか、上司殿。
 「返事」
 「……あの……私なら大丈」
 「へ、ん、じ」
 「…………はい」
 肯定しか認めないおつもりですかそうですか。
 一体なんなんですか。これまで仕事以外でこんな風に絡んで来たりしなかったのに。 
 「暫く管理室を空ける。留守は任せた」
 「了解しました」
 上司殿は書類を手に持って再び外へ。私はぽつんと一人、部屋の中。
 むむむ……やる事が無いぞー。仕事来ーい。但し、急ぎじゃないやーつ。
 「すみません」
 うお!? 本当に来たか!?
 扉を軽く叩いて入って来たのは、金髪の巻き毛が印象的な青い瞳の受付嬢メアリ様。様付けなのは、彼女の実家が貴族だから。同期の間での密かな呼び方だ。
 上司殿と並んだらそれはもう眩しくて直視できない神々しい絵面だと、お客様にも評判です。
 「はい。どのようなご用件でしょう」
 「あぁ、良かった。ステラさんにお願いがあって……今、受付のほうで手が足りなくて困っているのです。旅をされている方らしいのですけど、古書をたくさんご覧になりたいとかで。書監としてお付き添いしてくださらないかしら?」
 古書を大量に読みたがる旅人? 考古学者の類いか。
 どうしたもんかなぁ。本格的に管理室を空けちゃうけど……仕方ないよね。お客様第一!
 「付き添いはお引き受けしますが、此方への用事も直接私に持って来ていただけますか? 室長が留守なもので」
 「分かりましたわ。ありがとうございます、ステラさん」
 うう。素直な笑顔が眩しい。
 「お待たせしまし……あ」
 管理室に鍵を掛けて受付へ行くと、先日ぶつかった黒髪金目の男性が待ってた。
 なるほど。旅人だったのね。
 「先日は失礼しました」
 ぺこりと頭を下げると男性は微笑んで、いえ……と軽く首を振った。
 「古書の貸出しを許可する代わり、館内監視役として付き添わせていただきます。ステラとお呼びください」
 「ステラさんですね。私はクロスツェルと
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