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鐘を鳴らす者が二人いるのは間違っているだろうか
29.ジャイアント・キル
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「あ、れ………か、身体が………?」

 指一本動かずに、意識が少しずつ遠のいていく。
 突然の身体の異変に戸惑ったイデアは、ふと可能性に思い至った。

(あ………ひょっとして、今ので、力を使い果たした……の、かな――)

 実力に見合わぬ無茶をした結果、力尽きてしまった。
 カミイズミの奥義の再現と、父を越える最大の一撃。そんな無茶な行動を連発すれば、技を使う事に慣れないイデアの身体などあっという間に壊れてしまうはずだ。

(情けないなぁ………足も動かないし、瞼も重たくなっていく)

 こんな有様では父に呆れられてしまう――そう嘆いた彼女の身体を、大きくて無骨な手がすくいあげた。視界が白んだイデアにはその人物の顔が見えない。だが、掌から感じる暖かさがその人物の名を教えてくれる。
 自らの身体を抱いた主の方を向いて、呟く。

「ごめんなさい……もう、限界みたい……お父、さま……」
「何を謝ることがある。お前の勇気ある一撃、我が身でしかと受け止めた。聞こえぬか?この歓声が」

 聞こえるのは父の声。自分の心臓の鼓動。そして――

「聖騎士殿の鎧が割れている!?イデア様がやったのか!?」
「なんと……幼い頃より見守ってきたが、まさかこれほどご立派に成長なされるとは……!!」
「流石は元帥のご息女!これは公国の未来は明るいですなぁ!!」
「惜しむらくは決闘の内容を見られなんだことよな。さぞ凄まじい激闘だったのだろう」
「イデア様、万歳!!元帥閣下、万歳!エタルニア公国に栄光あれぇぇぇッ!!」

 自分達を包む、心地よい歓喜の声。
 誰もがイデアを認めていた。誰もがイデアの健闘を讃えていた。
 鳴り止まぬ大歓声が、教えてくれる。皆がどれほどイデアに期待していたのかを。

「お前は皆の『希望』に見事応えたのだ。今は父の腕に抱かれて眠るが良い。これは終わりではなく、始まりに過ぎぬのだから」
「なんか………懐かしい、なぁ…………昔も、お出かけした……後は……こんな風、に――」
「……………ふっ」

 遠い昔、家族で出かけたピクニック。
 その時も、疲れ切ったイデアをこんな風に抱いてくれた――そんな記憶の断片を胸に、イデアの意識は暗闇に落ちた。



 = =



「もう良いのか、ブレイブ……ほう、手ひどくやられたな」

「血は争えぬ……という奴だ。いや、違うな……この子はきっと私を越える」

「まったく、胸を斬り裂かれて血を流したくせに何と嬉しそうな面をしている?」

「だからこそ嬉しいのではないか。この子なら、『オラリオ』に胸を張って送り出せる」

「『もう一つの予言』か………イデアにも話すのか?」

「全てを話すにはまだイデアは幼すぎる。それに――」


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