忘却のレチタティーボ
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この男性は中性美人さんだ。
黒い髪に金色の虹彩が、なんというか神秘的。全身真っ白な服装ってのが、より綺麗さを引き立ててる。
「いえ、失礼しました」
男性は少し驚いてから、にこっと笑って書蔵館に入って行った。
もうすぐ閉館なのにな。こんな時間に来るなんて珍しい。
「行くぞ」
男性の背中を見送ってたら、腕を握ったままの室長に強く引っ張られた。
急に引っ張られたら転びますってば!
「じ、自分で歩きますから、手を離して……っ! 痛いです!」
足を止めて踏ん張る私に振り返り……
え? あれ? なんで其処で落ち込む?
「すまない……」
いやーっ! 止めてなんか知らないけど仔犬みたいにいじけないで! 反応に困る!
本当に一体どうしたんですか室長!?
「えーと……その……ゆっくり、行きましょう?」
職場用の笑顔を向けると、少しだけ顔を上げて頷いた。
この人誰。一睨みで凍死させちゃう上司殿は何処行った!?
「あ、ちょっと此処で待っててください」
その後、黙々と斜め後ろから付いて来る男性を道路脇に残して、街の一角に在る小さな花屋さんに駆け込む。
いつも買ってる白百合一輪を手に戻ると、見慣れた顔が微かに微笑んで待っていた。
なんぞ?
「行きましょう」
家路に急ぐ人達の間を縫って街外れに向かう。其処に在るのは、忘れられた旧教会。
街の中心に新しい教会が建てられたから、誰も来ないのは仕方ない。この辺りは近く再開発計画が進められる予定らしい。
私には遊び場だったし、思い出がいーっぱいあるから無くしたくないんだけど、そうも言ってられないのが社会事情って奴なのよね。
「……」
教会の入り口に百合を置いて両手を組み、片膝を突いて目蓋を閉じた。
暫くの沈黙の後、立ち上がって振り返ると、上司殿が眩しすぎる笑顔で私を硬直させた。
やー……夕陽が綺麗だなー。
なんて、現実逃避するのが精一杯でした。
顔面凶器って良い意味でも通じるよね……え? 駄目? 他に適当な表現が見付からないんだけども。
「……ありがとうございました」
「いや。今日はもう出歩くなよ」
空が濃い紫に染まる頃。
我が家の玄関先で上司殿に頭を下げると、彼は本当にそのまま引き返して行きました。
なにがなんだかさっぱりだ。逆に恐い。突然の路線変更は勘弁してください!
「……ふはーっ!」
家に入るなり、玄関扉を背凭れにしてズルーッと座り込む。
疲れたよーっ。お菓子の宴にする気も削がれたよーっ。
でも、何も食べないままなのも体に悪いしなぁ。サラダだけでも摘まむか。
「むぅ……先に入浴の準備しとこ」
動くのも億劫だ。でも玄関で寝るのは嫌。
しょうがないから、立ち上がって諸
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