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逆さの砂時計
忘却のレチタティーボ
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 あ、人間相手だけじゃないぞ。
 これ以上無いってくらい、心惹かれるものに逢いたいなぁ。
 無理だなぁ。これだって結局は自分の心の問題だもん。
 で、延々同じ事を考えちゃう訳だ。
 しかし、空白だ空っぽだ虚しいわ……って自覚してるのもすごいのかしら。無い物を無いと認識してるんだよね。
 うーん……もしかして、其処を埋める切っ掛けくらいには触ってるのかな。どうなんだろ。
 「休憩時間は終わりだ、ステラ」
 「うにゃ!? 室長……っ」
 急に背後から肩を叩かれた。ビックリして椅子から立ち上がると、横に回り込んで来た上司殿が右手をぐわしっと掴んで私を職場に連行する。
 ああー……また暗い室内での書類整理が始まるのかぁー。
 さらば、愛しのぐうたら時間。


 「昨年の未返却分請求期限っていつだった?」
 「昨日の筈よ。補填費用の割り出しと在庫の問い合わせはこっちでやっとくわ」
 「了解」
 国立書蔵館東方支部は今日も大忙し。同期の女性三人が飴色の木製机の上にぺらぺらの薄い紙を重ねまくって奮闘中。
 受付事務はお客様直結のお仕事だから見た目綺麗なお嬢様が集められてるけど、お客様直結だから激務なのよね。辞める率も他部所と比べて桁違いって話。
 必死な彼女達を横目に上司殿と私が向かうのは、奥の裏部所。同じ事務の仕事でも、私達が任されてるのは過去の書類の整理。在庫の統計やら入庫管理の書類を順番通りに分かりやすく並べ、確認したい人の為に素早く提出してまた戻す。
 要するに雑用だけど、これはこれで大変なんだぞ。
 隅から隅まで走っても五分は掛かる広大な倉庫から、薄い紙切れ数枚を的確に短時間で見付けなきゃいけないんだから。大体の配置を覚えてる必要がある訳よ。
 しかも、普段は暇でも、いつ何を必要とされるか判らなくて、倉庫周辺から長時間離れられないっていうね。
 他人と関わるのが得意じゃない私にはありがたい部所だけどさ。屋内の全力疾走はキツいー。せめてもう一人増やして室長さまー。二人じゃ大変だよ、やっぱり。
 「昼前に増えた書類は纏めておいた。これとこれは……」
 「はい。では、此方は」
 「そっちは俺が引き受けておく。終わったら管理室で待機だ」
 「了解しました」
 上司殿の丁寧な指示を受けて倉庫への搬入を開始する。
 両手で抱えてふらつく程度の量がズラッと並んで五つ分。午前中に比べれば格段に少ない。書類申告が来なければ今日は楽そうだ。
 来るなー。来るなー。


 来なかった。なんという幸運。
 「お疲れ様でした」
 「ああ」
 黒革製の椅子に腰掛けて天井を見ていた室長に一礼し、狭い管理室を出る。室長は私に振り向きもせず、いつも通り返事だけしてくれた。
 この仕事人間、仕事以外は大体放置してくれるから
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