4部分:第四章
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らそれは心配しないで」
沙耶香は言った。
「むしろ気になるのは」
「お酒ならふんだんに用意してありますので」
「わかっているのね」
「あの方からのたっての御言葉で」
彼は答えた。
「上等のワインにブランデーを用意しておきました」
「有り難う」
沙耶香は酒があると聞いてその頬をほころばせた。やはり妖艶な笑みであった。
「それじゃあまずは部屋を」
「はい」
男は二階を進む。そしてその中のある一室の前にやって来た。
「こちらでございます」
「ここね」
「はい。御客様用の部屋でございまして」
言いながらその部屋の扉を開ける。その中はホテルの客室と見紛うばかりの古風でかつ豪奢な佇まいの部屋であった。
木製のシックなテーブルと椅子がありベッドは天幕が付いている。窓には白いシルクのカーテンがあり広く、全体的に落ち着いた雰囲気がある。沙耶香の趣向に合せたかの様な部屋であった。
「如何でしょうか」
「いいわね」
その切れ長の目を細めていた。
「御風呂場と御不浄は別にありますので」
「そうなの」
「それを使われる場合はまた。家の者を御呼び下さい」
「ええ、わかったわ」
それに応えて頷く。
「それじゃあまた後で」
「はい。あっ、言い忘れていたことがあります」
「何!?」
「御食事や御酒はルームサービスになっておりますので」
「ルームサービスね」
「ええ。ですから部屋でお待ち下さい。もうすぐ夕食が運ばれてきますので」
「少し早いのではなくて?」
懐中時計を見た。見ればまだ六時であった。
「そうでしょうか」
「ええ。そう思うけれど」
「それでは時間を遅らせましょうか」
「もう料理は作りはじめてるのかしら」
「そうだと思いますが」
「そう。だったらいいわ」
「そのままお持ちして」
「お願いするわ。それじゃあ」
「畏まりました」
男は一礼して部屋を後にした。それから暫くして黒い髪を肩の高さで切った黒い服のメイドがやって来た。まだ幼さの残る初々しい顔立ちである。
「お待たせしました」
「ルームサービスね」
「はい。御料理と御酒です。御酒は」
「赤ワインね」
銀の覆いをどけるとそこから鴨をメインディッシュにしたフルコースと赤ワインが姿を現わした。沙耶香はそれを料理が出される前に言い当てたのであった。
「その通りです。よくおわかりになられましたね」
「勘よ」
沙耶香はにこりと笑ってそう答えた。
「当たったようね」
「鴨には赤ワインが合いますので」
「そうね」
それに応えながら席に着く。少女はそこにまずはスープを置いた。
食器もスプーンも銀であった。その輝く身体が沙耶香の漆黒の身体を映し出していた。銀が白い光ではなく黒い光を放っていた。
沙耶香はスープを
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