浅き夢見し、酔いもせず
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なければ愛しい人は死んでしまう。
いつでも、戦場でしてきた事。でも違う。違うのだ。
背中を安心して任せてくれた恋は此処に居ない。
大丈夫だと示して、くしゃりと頭を撫でて戦場に向かっていた気高い飛将軍は此処に居ない。
向けてくれた信頼は一つも無く、命令を下して受諾するだけの関係の今の自分達で、本物の信頼で結ばれている奴等に勝てるのか否か。
判断を誤れば全滅。飛龍隊であろうと孫呉の兵士には手古摺る。実力的にはまだ足りない。これが英雄の集いし呂布隊であったなら、孫呉の兵士など撃滅出来るというのに。
命を使えと言えばきっと聞いてくれるだろう。そんな選択肢は愚の骨頂ではあるが。
今の恋を信じられないから、ねねの心は焦燥と絶望に染まる。
優勢に見える局所的な状況はただの飾りに思える。孫策が剣を振る度、命を繋ぎ続ける限り、孫呉の兵士達の力はいやに増している。
アレを殺さねば全滅するかもしれない。殺せばいいのか? ただ殺せばいいなら手段はあるぞ。内に響く悪のケモノがそっと語り掛けるが……ねねの頭は冷静だった。
――飛将軍の刃以外で殺してしまえば孫呉の兵士はこちら側と同じに堕ちる。ねね達を皆殺しにするまで止まらないケモノになるだろう。さすがに同じモノがぶつかり合えば、まだ他にも部隊を残している孫呉側に軍配があがる。
対してねね達には予備兵力など無く、荊州さえ落とされているから逃げるにも八方ふさがり。
コレでもう、人形のようになってしまった恋を信じるしかなくなった。
この時ほど、ねねは己の非力を呪ったことは無い。
自分には何故武力が無い。自分は何故隣で肩を並べて戦えない。自分は何故、こんな遠くで兵士を指揮するしか出来ないのだ。
――ねねに華雄のような豪勇があれば……
もう居ない友なら、豪快に笑いながら任せておけと言って退けたはずで、
――ねねに、あの裏切り者のような神速があれば……
離れて行った神速の将軍なら、不敵な笑みに歓喜を浮かべて任せておけと言って駆けたはずで、
――ねねに……恋殿のような天下無双の力があれば……
優しくて強くて弱かった彼女だったなら、小さくコクリと頷いて、何も言わずに全てを打ち砕いたはず。
どれだけ望んでも彼女には力は無い。小賢しく頭は回ろうとも、こと戦場に於いては彼女達の武こそが一番純粋に結果を出せる。
本当はその為に、彼女はバカ共と絆を繋いで来たはずだった。
だからだろう。瞬間的にねねは後ろを見た。何か自分に出来ることは無いかと、彼女は自分の力を確かめようとした。
後ろには、この戦が始まってからずっと付き従ってくれている副隊長と、約半数の飛龍隊の姿。残してある力はまだあった。
「……陳宮様。俺らの仕事はなんですかい
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