浅き夢見し、酔いもせず
[9/16]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
女は誰も辿り着けない頂に居るはず。
――何故、恋殿が敵を殺しきれないのですか……
信じている。知っている。分かっている。ずっとずっと一緒に戦ってきたのだから、彼女のでたらめさなどねねが一番思い知っている。
それなのに、戦場を住処として生きてきた戦姫と互角の勝負を繰り広げていた。
いや、互角というには語弊がある。
恋は傷一つついていない。いつも通り無傷で戦場に居座り、目の前に来る敵からも、たまに飛び出してくる兵士からも、何一つ刃を受けることは無い。
対して雪蓮は傷だらけ。肩で息をして、どうにか刃を掻い潜りながら受け止め攻勢に出て、殺そうと向かってくる兵士を吹き飛ばす度に致命傷では無いが傷を付けられている。
誰が見ても雪蓮が圧されていると見る。誰が見ても雪蓮の敗北を思い浮かべる。誰が見ても飛将軍を化け物と言うだろう。
しかしながら、ねねはその誰とも違う焦りに身を染めていた。
一振りで十人を弾き飛ばせる飛将軍の方天画戟を、天下無双の暴力を……雪蓮は弾き返しているのだ。
一騎打ちで殺しきれないなど有り得ないのだ。六人を相手取っても負けない化け物が、たった一人を殺せないことなどあるはずが無い。
確かに邪魔は入っている。とは言っても、そんなモノは当人にとっては有って無いようなモノ。風が頬を撫でるのと変わりない。
必殺の袈裟も、目にも留まらぬ程の連撃も、つむじ風を巻き起こす程の切り上げも、全てを雪蓮が受け止め弾き返す。
方天画戟の攻撃範囲は雪蓮の持っている南海覇王よりもはるかに長い。それでいて質量や重心の関係から威力の程は段違い。
それをたかだか細剣で受けられるなど、おかしいとしかいいようが無かった。
傷は与えている。しかし決めきれない。一太刀でも入れば絶命は免れない凶刃がすんでの所で全て外れる。
敵が上手いのか、とも思ったがそんなはずは無い。ではなんだ、何がおかしい? 考えていけば……おのずと答えは出てくる。
――心を閉ざし感情を失ってから武将との戦闘は初めて。虎牢関と洛陽の二つとも動きが違う。孫策も確かに強くなっているように見えるのですが……恋殿の力が明らかに下がっている。
実力の高いモノと戦って無かったから読み違えた。兵士なら問題ないそれはどの武将であっても同じではあるが、特に恋は対軍でも機能する飛将軍というのが悪かった。
今になって初めて知れた事実にねねの心が恐怖に染まる。
現状はまだいい。しかし此処で周瑜が何かしら動きを投じて来たなら、“孫策の討ち取り”を命じた恋が罠に嵌まる可能性も出てきた。
心の底からすくみ上るような、足元が崩れ去るかのような、そんな感覚が全身を包みねねの掌は知らぬうちに震えていた。
呼吸が上手く紡げない。だが、ねねが兵士を操ら
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2025 肥前のポチ