浅き夢見し、酔いもせず
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?」
彼もどれだけ危ういか悟っているらしく、声は静かで低くなっていた。落ち着き払ったその声を、ねねは聞いたことがあった。
虎牢関で、洛陽でも、ついて来てくれた呂布隊と同じく。
自分の命令の為に命を賭けると言ってくれる、誇り高いバカ共と同じく。
震えていた手が、ぎゅうと力強く握られた。
自分の非力を呪う前に、自分に出来ることを全て遣り切らなければならない。
ねねは飛将軍の為の軍師で、この飛龍隊の頭なのだ。個になると言ったなら……やるべきことは、一つだけ。
笑った。目を細めて強気に、それでいて悪辣に。舌を出したのは無意識の内。可愛らしい容姿に不敵さが混ざって、もう居ない悪龍のようだった。
「……決まっているのです。楽しいことで、悪いことなのですよ」
嗚呼、とねねは心の内で涙した。
こいつらと出会えただけでも、自分にはまだ救いがあったのだと。そして愛しい人にも、まだ救いはあるのだと。
†
幼い時から武を磨くことに力を入れ、王たるモノの学を身に着け、広く見聞を広め現況を知り、そうして立っているのがこの居場所。
お姫様、と言えば聞こえがいい。此処はそんな綺麗な言葉で飾れる場所じゃない。
幼子が妄想するような豪奢な暮らしや優雅で甘美な日常の風景……そんなモノは一切ありはしない。
吹き出る赤、鼻につく汚物の匂い、湯気の立つハラワタ、汗と泥に塗れて日々を暮せば、そんなモノは幻想世界の出来事だと言い切れる。
才能があったから磨いた。自衛出来る程度強ければそれで良かったのかもしれない。
けれども人の涙を見てしまえば、自分に出来ることを一つでも多くと磨き上げてしまうのも詮無きかな。
ずっと追いかけていた母親の背中には届いただろうか。今、私はどんな風に見えているだろうか。
もし天から見ているのなら……ねぇ、母様。私は並べたかな?
暴風のような戟の数々をどうにか掻い潜り、隙を突いてみても一太刀たりとて当たりもしない。
目の前で見ればその武の鋭さに感嘆しか湧いて来ない。紅い髪の一筋さえ斬ることが出来ずに、私の身体にだけ切り傷ばかり増えて行く。
こいつは人の頂点だ。人が極められる限界値の武力を持っている。
まるで住んでる時間が違うかのように。呂布にとっては、私の剣など止まっているのではないかとすら思えてくる。
でもなんでかな。
剣を合わせてみてよく分かった。
この女は壊れた。
絶望に堕ちて、哀しみに耐えきれずに、昔のような最強では無くなった。
あの頃の呂布なら武神と言っても良かっただろう。人生を賭けて鍛え上げてきた武が赤子扱いだったのだから、自信だって無くすというモノだ。
だけど……今は届く。これは確信。
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