翔べない鳥の翼
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虹色。『奴』の力か」
顎に指先を当てて、記憶を探る。
無様な姿で彼女と共に戦い、呆気なく消滅した愚かな男。
本来の力量ではないだろうと思ってはいたが。
なんらかの形で現界に遺していた力を、クロスツェルが引き継いだ、か。
本はともかく、『結晶』や『奴』の力まで集めているとなると、少々厄介だ。
逃走を選んだのは、力の使い方がまだ不明瞭だからだとして。
自在に使いこなす程度まで覚えられるのは、風向きが悪い。
アリアはまだ完全ではないし、完全になるのを拒んでいる。
「……甘やかすのも、問題ありだな」
成就まであと一息のところに辿り着いておきながら。
隙を突いて、するりと逃げ出した可愛い小鳥。
今は手元に戻り、以前と変わらないフリを続けているが、さて。
「アリアは神聖なる女神でなければならないが、人間は信仰による救済をも利用し始めている。現代の人間を掌握する物は何だ? 現代の人間を動かす衝動はどこにある?」
地面を軽く蹴って垂直に跳び上がり、地平線を望む位置でふわりと浮く。
真っ青な空。遥か彼方に白い雲。
空との境界を青白くぼかした山並み。
各地に積もった雪は、陽光でキラキラと眩しく輝いている。
ああ、やはり。
この世界は時を重ね、形を変えても美しい。
美しいものは尊ばれるべきだ。
「早く声が聴きたいな。この世界のどんな音よりも、繊細で力強いだろう」
久しぶりに会うのも良いと思ったが、『結晶』はもう少し後にしよう。
楽しみはゆっくりと、だ。
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