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逆さの砂時計
語り継ぐもの 2
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しい味付けに挑戦しようと思わなかった辺りが、怠け者の証明だ。

「旅をされている方に、こんなことをお願いするのはどうかと思いますが。差し支えなければ朝食も手伝っていただけますか?」
「朝食も?」
「はい。クロスツェルさんの手際の良さを勉強したいのです」

 クロスツェルさんはちょっとだけ目を丸くして、にこっと笑った。

「私でよろしければ、喜んで」

 よし。
 明日の朝食はいつもの倍以上美味しくなりそうだ。
 期待しよう。



 夕飯を残さず平らげて洗い物を済ませた後、二人を二階へ案内した。

 二階には、自室の他に三つの部屋がある。
 一つは散らかった物置状態なので決して入らぬようにと警告しつつ。
 他の二部屋へ一人ずつ、それぞれを招き入れた。
 元々大家族が建てた物を中古で購入したので、一人暮らしには豪邸だ。
 突然の来客にも対応できるのが、最大の利点だな。
 自室以外には必要最低限の家具しか置いてないし。
 どれも中身は空っぽだから、物盗りも心配しなくて良い。
 多少ホコリっぽいかも知れないが、そこは愛嬌(あいきょう)と流してもらおう。

「入浴がご入り用でしたら一声下さい。浴室へご案内します」
「何から何まで、お世話になります」
「いいえ。ごゆっくりどうぞ」

 律儀に頭を下げるクロスツェルさんを、そこそこ広い個人部屋に残し。
 私は一人で一階へ降りる。

 調理場の奥にある浴室で浴槽を洗い、半分より上程度に湯を張った。
 容量いっぱいに注ぐと、入った時に流れ出てしまうから勿体ないのだ。
 いついかなる時も、質素倹約を忘れてはならない。
 その代わり。
 体を洗浄する為の湯は、専用の大きめな(かめ)になみなみと用意しておく。

 濡れた手足をタオルで拭き取り、浴室を出て二階へ戻る。
 明日からの予定を話しているのか。
 別々に通した筈の二人の声が、クロスツェルさんの部屋から聞こえた。
 ちょっと聞き耳を立ててみたい気もするが、それは礼儀に欠ける行いだ。
 恥ずべき衝動を抑えて、隣にある自室へ向かう。

 外からも内からも鍵を掛けられる便利な扉を開いて入り、後ろ手で閉め。
 問題ないとは思うが一応……と、扉に向き直って鍵を掛けた途端。
 背後に気配を感じた。

「!?」

 勢いよく振り返った先に。
 つまり、自室の中に。
 腰まで届く長い髪の女性がうつむいて立っている。
 入った時は誰も居なかったのに。

「……誰?」

 背丈や肩幅からすると、二十代前半くらいだろうか。
 輪郭を隠すゆったりしたローブを着ているわりに、華奢な印象を受ける。
 隙だらけな棒立ちの姿勢といい、住民(わたし)を見ても逃げないことといい。

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