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珠瀬鎮守府
柏木提督ノ章
五文字の伝言
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に何かが歩く音がした。だがそれは未だ続く指揮所の崩壊によって位置が分かりづらい。それは少しずつ近づいてきているようだったが、やはり微かな音で、位置は殆どわからなかった。
 その時、一陣の風が抜けた。それは完全とまではいかずとも視界を得るのに十分なほどの新鮮な空気を送ってきた。だから、それには驚いた。私の直ぐ右手、その武装が私に触れてしまいそうな程近くに深海棲鬼の戦艦がいたのだから。右耳が聞こえないから、近くまで来ても全く気づけなかったのだ。
 気づけなかったのは私だけではなく向こうもそうだったのか、互いに武器はそっぽを向いていた。先に相手に武器を向けるは私。この至近距離、殆ど接射に近い。照門を覗かぬまま引き金を引く。だが、その間際戦艦は銃を払い弾丸は空の彼方へ消えた。
 立ち上がりながら右足を半歩下げ、右へ逸らした九九式を素早く次弾装填。その間にこちらに照準をつけた戦艦の砲を、装填の終わった九九式の銃床で殴って逸らす。敵の砲弾も遥か空へと消えた。こちらの番とばかりに構え直した九九式の引き金を引く間際に戦艦は払おうとする。が、銃身を払いきれずに銃弾は脚部の装甲と装甲の隙間に入り込み損傷を負わせた。
「アアアアアア!」
 叫び声を上げる戦艦から二歩下がり九九式の装填を済ませ、発砲。頭部を狙ったが、戦艦は間一髪で避ける。四発目を装填し、私は戦艦の胸元へ銃を力の限り突き、そのまま引き金を引いた。戦艦は何とか銃身を払うが、弾は装甲の隙間から左肩部に当たり損傷を与える。だが、致命傷足り得ない。
「死ネエエエエエエエ!」
 装填作業が終わったのか、戦艦は主砲をこちらに向けてくる。私はそれに臆さず体当たりし戦艦を転ばせる。そのまま右手を戦艦の顎に、左手を頭頂部へと運ぶ。それと同時に私の脇腹に何かが触れた、戦艦の主砲に他ならないだろう。
 両手に力を込める。頚椎を折らんと一気に捩じ上げる。そうして、何かを折ったような感触を手のひらに感じた瞬間に、脇腹に触れた主砲は火を吹いた。


「大丈夫ですか! 柏木さん!」
 誰かの声で目が覚めた。酷く眠たいというのに誰だろうか。
「ああ」
 目を開けたというのに視界は靄がかかっていた。
「待ってください。今応急処置をします。大丈夫です。もうすぐ医療班も来てくれます」
 先まで大丈夫か訪ねていたのに、今は大丈夫という。面白いものだ。
「直ぐ起きる」
「動かないで!」
 その声で、その声の主がわかった。私の従兄弟だった、提督を目指している。
「お前か」
 そうして同時に、自身の置かれた状況を思い出した。
「戦艦は、どうなった」
「目の前のですか? 死んでいます」
「そうか」
 徐々に意識が覚醒すると共に、痛みが体を襲ってきた。首だけ脇腹のほうをむければ理由は明らかだった。最期、今際の際に戦艦
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