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鐘を鳴らす者が二人いるのは間違っているだろうか
27.精霊と神と
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し出された剣に、イデアは驚きの余り思わずのけぞった。
 白い柄の、(つば)がないカタナ。それはカミイズミが所持する二本の愛刀のうちの一つ。

 業物『伊勢守(いせのかみ)』――文句のつけようがない名刀である。

 カミイズミは普段はこの『伊勢守』を帯刀し、そして遠征などどこかに攻め込む際は『流星』というもう一振りの刀を持つ。『伊勢守』は守るという文字が入っているため守りには縁起が良く、そして『流星』は一方通行ゆえに攻めに縁起がいい、ということらしい。東洋にある『ゲン担ぎ』という独特の文化らしく、2本に優劣は存在しない。
 剣士の魂とも言える剣を自分に差し出したこともそうだが、父との戦いに『真剣』を使えと言い放たれた事実に戦慄が走る。
 つまり、これは父を『斬る』つもりで戦えという意味だ。

「斬る……あたしが、父さまを………」
「それだけブレイブも本気だという事だ。イデア――甘さは捨てて己が全てをぶつけてこい!温情、手加減一切無用……そも、そのような余裕を持たせてくれる相手でもないがな」
「公国最強と謳われる鉄壁の防御……そっか。生半可な一撃じゃ傷どころか一発入れることさえ難しいんだ」

 改めて父の事を意識したイデアは力強く剣を握り、刃を抜き放った。
 ため息が漏れるほど美しく、魂が震えるほどに力強い一本の刃が、イデアの目の前に姿を現す。
 光を斬り裂くように妖しい輝きを放つ剣を、イデアは両手で掴んで虚空に振り下ろす。

 素振り。剣術の最も基本的で、最も大事な動作だ。
 刀は寸分の乱れもなく地面に対して垂直にひゅっ、と振り下ろされる。
 剣の重さ、感触、リーチ……全てを体に刻むように二度、三度、ずしりと重い刀を振り下ろす。

 それを数度繰り返し、イデアは一度深呼吸をした。
 重心のブレもなく力任せでもない完成された太刀筋にカミイズミは表情に出さず、しかし満足そうに一度頷いた。

「迷いはないな。ならば私からいう事はもうない。……ぶつかって来い!」
「はいっ!それじゃ、あたし行ってします!」

 イデア・リー人生初めての試練。
 それは、自分という存在を剣を交えて父にぶつける事。

 エタルニア公国軍元帥にして『六人会議』の議長。
 そして『聖騎士』のアスタリスクの正当所持者、『二聖』が一人。
 最北の地に佇み、神さえ慄く生ける軍神――この国の最強の盾にして矛。
 
 勝てるはずがない、とイデアの心のどこかで誰かが囁いた。
 イデアはその呟きに、堂々とこう答えた。

 『 ブレイブリー・デフォルト(やってみなきゃ、わからない)!! 』
 
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