12部分:第十二章
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第十二章
「少なくとも貴方は自分の感情をコントロール出来るわよね」
「ええ」
速水はそれに頷いた。
「それには自信があります」
「だったら安心よ。こうした力というのは感情とシンクロしているから」
「それはわかっていますが」
「だからね。貴方なら」
沙耶香は言う。
「どんな力になっても大丈夫よ」
「その言葉信じさせてもらいますか」
速水はそれを聞いてこう述べた。自嘲気味だった笑みは穏やかで何かを信じるようなものになっていた。
「貴女の言葉ですしね」
「恋する女には、てことかしら」
「そんなところです」
そしてそれを否定はしなかった。
「ではこの力。これからも」
「ええ」
「使わせて頂きましょう。それでですね」
彼はファイルに話を戻してきた。
「そちらの女性です」
「彼女ね」
「はい、おわかりだと思いますが」
「日本人ではないわね」
沙耶香にもそれはすぐにわかった。彫の深い顔立ちに白い肌、髪は炎の様に赤くその目は水晶の様に透き通った湖の色である。明らかに日本人のものではなかった。
「ワインということは。フランス人かしら」
「そうですね」
速水はその言葉に頷いた。
「御名前はエレナ=ダレンジェール」
「フランスの名ね」
「フランスでは有名なソムリエらしくて。あの方に特別に招かれたようです」
「それでこの屋敷に」
「はい。私達のワインもこの方が選ばれたそうです」
「成程。あのワインも」
「はい」
「彼女が選んだのね、見事だったわ」
「見事というのは。ソムリエとしてだけですか?それとも」
「その先も私に言わせる気かしら」
「おやおや」
沙耶香のその言葉に肩をすくめてみせた。
「ではまた」
「そうね。面白そうだわね」
また沙耶香の方もそれを隠そうとはしなかった。
「美味しいワインと共にね」
「詳しい身元調査ですか」
「どうしようかしら。貴方はこれからどうするの?」
「私ですか?今は何もしませんよ」
速水はそう沙耶香に述べた。
「今はね。とりあえず事件の調査も一段落しましたし」
「そうなの」
「ええ。また明日です」
「寝るだけ、というわけね」
「一人寂しくね。もてない男というものは辛いものです」
「言ってくれるわね」
「何、聞き流して下さって結構ですよ」
「それじゃあ」
「御自身の部屋ですか?それとも」
「さてね」
沙耶香はその返事はあえてぼかしてきた。
「どうしようかしら」
「またそんなことを」
だが速水にはおおよそのことは予想がついていた。
「まあいいです。私はそちらには何も言うつもりはありませんから」
「寛容なのね」
「貴女程の魅力の方なら。どんな人でも心を奪われます」
「そうかしら」
「私もそうなのです
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