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逆さの砂時計
くろすつぇるさんのためいき
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見受けられる。

 まだ、太陽が西に傾いて間もない頃。
 『街』にアリアの情報は期待できないので、列には並ばず通り過ぎる……

「クロスツェル?」

 ……つもりでそのまま進もうとしたら、近くの馬車から声を掛けられた。
 聞こえてきた音の並びが自分の名前だと気付くまでに数秒を要したのは、自分を気軽に呼ぶ相手が、最近ではベゼドラしかいなかったからだ。

 こんな場所で。
 しかも、()()()()で呼ばれるとは、思ってもみなかった。

「やっぱり! クロスツェルじゃないの!」

 馬車をぴょんと飛び出し、足取り軽く走り寄ってきたのは、まっすぐ長い金色の髪と金色の目を持ち、自分より頭一つ分背が高くすらりとした体型で真っ白な長衣を着た、見た目だけは繊細美人な、アリア信仰の友人だった。

「アーレスト……?」
「やだわ、もお! 久しぶりだからって、そんな他人行儀で呼ばないで! 『アーちゃん』って呼んでっ」

 唖然と立ち尽くしている自分の肩を、満面の笑みでバシバシ叩く友人。
 その様子を見て、ベゼドラの顔が露骨にウゼェ……と訴えた。

「…………アー、ちゃん」
「なぁに? クーちゃんっ」

 殴って良いか? と、身構えるベゼドラを半目で制しながら。
 数年ぶりに会った友人へ、にっこりと作り笑いを返す。

「お久しぶりです。こちらの街へは、どのような御用向きで? 確か貴方が預かった教会は、南区の南西端にあった筈ですよね?」
「うーん。そうなのよ。私は今、担当教会を離れて出張中! 大司教様から直々の指令でね。この街の担当になった新米神父の補助役として来たの」

 言動にこそ難はあるが、アーレストは群を抜いて優秀な教師だ。
 この国にあるアリア信仰の全教会で最高位に立つ大司教様の信任も厚く。
 彼が預かっている教会に通う一般信徒も多いと聞いた。
 一度も見に行ったことはないが。

「あのハゲ頭、よくも! って思ってたけどお、クーちゃんに会えたから、海より深く空より高く大地より広い心で、仕方なく、赦してあげちゃう!」
「はあ」

 頭を抱えて頬ずりしてくるアー……レストに、曖昧(あいまい)な返事をする。

「クーちゃんの教会は東区だったわよね? どうして北区に居るの?」
「……今は、巡礼の旅に出ていまして」

 どう答えようか一瞬悩んだが。
 これもある意味、間違いではない。
 と、思う。

「は? なんでそんな修行徒みたいなこと……はっ!? まさかクーちゃん、その黒づくめに貞そ」
「ちょっと黙りましょうか、アーちゃん。赴任して早々に、いろいろ問題を起こしたくはありませんよね? い。ろ。い。ろ。」
「ごめんなさい」

 パッと離れて素直に頭を下
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