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逆さの砂時計
くろすつぇるさんのためいき
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て呼んでっ」
 満面の笑みで自分の肩をバシバシ叩く友人を見て、ベゼドラの顔が露骨にウゼェ……と訴えた。
 「………………アー、ちゃん」
 「なぁに? クーちゃんっ」
 殴って良いか? と構えるベゼドラを半目で制しながら、友人ににっこりと作り笑いを返す。
 「お久しぶりです。此方へはどのような御用向きで? 確か、貴方が預かった教会は南区でしたよね」
 「うーん……そうなのよ。私は今、担当教会を離れて出張中! 大司教様から直々の指令でね。此処の新米神父を補佐しろって言われてるの」
 アーレストは言動にこそ少々問題はあるが、優秀なアリア信仰の教師だ。この国のアリア信仰最高位に立つ大司教様の信任も厚く、担当教会の信徒も多いと聞いた。一度も見に行った事は無いが。
 「あのハゲ頭、よくも! って思ってたけど、クーちゃんに会えたから海より深く空より高く大地より広い心で赦してあげちゃう!」
 「はぁ……」
 何故か頭を抱えて頬擦りしてくるアー……レストに、曖昧な返事をする。
 「クーちゃんは東区担当でしょ? どうして北区に居るの?」
 「諸国巡礼の旅に出ていまして」
 どう答えようか一瞬悩んだが、これもある意味間違いではない。と思う。
 「は? なんでそんな修行徒みたいな事……は! まさかクーちゃん!? その黒づくめに貞そ」
 「ちょっと黙りましょうか、アーちゃん。赴任早々いろいろ問題を起こしたくはありませんよね? い。ろ。い。ろ。」
 「ごめんなさい」
 パッと離れて素直に頭を下げるアーレストと、自分の顔を覗いて半歩退いたベゼドラ。
 ……どういう意味だ。
 「でもそれ、司教様に許可取ったんでしょうね? まさか、貴方ほどの神父が教会を放置するなんて事……」
 「事情があったので」
 信仰していた女神を追い掛けていますとは言えず、曖昧に誤魔化すしかない。
 こんな事が中央教会に知れたら、それこそ面倒な局面に立たされてしまう。
 「ふぅん…まぁ良いわ。クーちゃんにはクーちゃんの遣り方があるものね。でも良い? 絶対に命を粗末にしては駄目よ。生きてこその世界なんですからね!」
 再び頭を抱えて頬擦りするアーレスト。
 だから何故、毎回頭を抱えるのか。
 「ええ。よく理解しています」
 苦笑いを浮かべてアーレストの背中を軽く叩く。
 「では、私達は先を急ぎますので」
 「あ、待ってクーちゃん。そっちの黒づくめの人とちょっと話させて?」
 「あ?」
 ベゼドラの顔が心底嫌そうに歪んだ。
 リーシェやアーレストのような賑やかな性格は本当に嫌いなのだろう。既に逃げる体勢に入っている。
 「直ぐに済ませるから。ね?」
 「……あまり追い詰めないでくださいね」
 「もっちろん! さ、黒い人。ちょっとこっちへ来て頂戴」
 
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