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逆さの砂時計
くろすつぇるさんのためいき
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付いた事の一つだが、彼は基本、観察するだけで周りに対して無闇な干渉はしない。自分の目的に関わる事だけを選ぶ節がある。
 悪魔と言えば手当たり次第に人間を堕落させたり喰い物にしたりという印象があった自分としては、かなり意外だ。悪魔全体の特性が面倒臭がりなのかと訊いてみれば、他のヤツの事なんぞ知らん! と、キッパリ切り捨てられた。
 分別を付けられる大人では無さそうなので、要するに彼は多分、子供……なのだろう。興味が向いた先にしか進まない、他を省みない、純粋で真っ直ぐな子供。
 悪魔に純粋とはこれ如何に。そして、実年齢は恐らく四桁を越えている相手を子供呼ばわりするのも如何なものか。
 しかし、リーシェの例を考えてみても、長寿生物ほど精神の発達は遅いのかも知れない。元々の感受性の違いなのか、人間が単純に生き急いでいるだけなのかは微妙な所だが。
 「クロスツェル」
 「!?」
 突然、黒い本を投げ渡された。慌てて両手で抱える。
 「それ、持ってろ」
 「自分で持ち出したのでしょう。貴方が責任を持って大切にしなさい」
 「面倒い。重いし」
 自分の推測は正しそうだ。ぷぃっと横を向く彼の顔は、玩具の片付けを拒む子供そのもの。泣き喚いて嫌がらないだけ大人な気もするが、この体格でそれをされたら痛々しいにも程がある。其処まで幼くなくて良かったと心から安堵しつつ、また溜め息が溢れた。
 「これ以上は持ちませんからね」
 あれこれ言っても、彼がいなければ自分は此処まで来られなかった。少しくらいは協力しても良い……が、甘やかしてもいけないのだろう。多分。
 神父を辞めて悪魔の父親代わり。
 頭の隅を過った言葉に、何の冗談かと笑いが込み上げてくる。


 下った先では、雪に覆われた大きな街が構えていた。
 石の壁で建ち並ぶ住居を囲い、唯一の出入り口である立派な門の周辺には馬車で並ぶ商人や旅芸人らしき姿が見受けられる。
 まだ太陽が西に傾いて間も無い頃。
 街に対してアリアの情報は期待できないので、入街許可を待つ列には並ばず通り過ぎる。
 「クロスツェル?」
 そのまま進もうとしたら、近くの馬車から声を掛けられた。
 自分の名前だと気付くのに数秒を要したのは、最近自分を呼び掛ける相手がベゼドラしかいなかったからだ。
 こんな場所で。しかも女声で呼ばれるとは思ってもみなかった。
 「やっぱり! クロスツェルじゃないの!」
 振り返った自分に、ピョンと足取り軽く馬車を飛び出して走り寄って来たのは、真っ直ぐ長い金髪と金の瞳を持ち、自分より頭一つ分背が高くすらりとした体型で真っ白な長衣を纏う、見た目だけは繊細な、アリア信徒当時の友人だった。
 「アーレスト……」
 「やだもぅ! 久しぶりだからってそんな他人行儀で呼ばないで。アーちゃんっ
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