書の守り人
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れで良い』と締め括っている辺り。
多分、亡くなったのではなく、書かなくなったのだろう。
書く必要がなくなったのか、書けない状況に置かれたのか。
どちらにせよ、日記はそこから先の人生を語らない。
残る数十枚の白紙をまとめて裏表紙で閉じた。
本が当時のままなのか、復元された物なのかは分からない。
だが、埋められた筈のたった数十枚の白紙を物悲しく感じるのは。
書いた本人や、書かれた当時の世界を、自分が知らないからだろうか。
膝の上に乗せた誰かの人生。誰かの記憶。
指先で裏表紙をそっとなぞって……
ふと暗くなった視界に、目を瞬く。
暖炉に顔を向けると、クッションの上に立つ人影があった。
「……え!?」
暖炉から逆光を浴びる、真っ黒な服の男。
彼は短い金髪をさらりと揺らして、ゆっくりとソファーに歩み寄り。
腰を曲げてセレイラの顔を覗き込んできた。
吸い込まれそうな紫色の目を細め、セレイラの膝から日記を持ち上げる。
「面白い物を持っているな」
「え、あの……っ、貴方いったい、どこから……!?」
鍵はちゃんと閉めた。
この家の中にはセレイラ一人しか居ない筈だ。
慌てて玄関扉に目をやっても、やはり閉じ切ったまま。
誰かが出入りしたような音は聞こえなかったし、開いた様子もない。
だが、男はセレイラの目の前で悠々と日記をめくり、クス、と笑う。
「有ろうが無かろうが、どうでもいい内容だな。少々懐かしいが」
懐かしい?
セレイラが首を傾げると。
男は日記をテーブルの上に置いて、再びセレイラの顔を覗き見た。
吊り上がり気味な目が妖しく光り、愉しそうに歪む。
その整った顔立ちが、セレイラの視界を占領して。
「!?」
唇が、塞がれている。
気付いた時には、ソファーの座面に背中から押し倒されていた。
男の右手がセレイラの頭を支えて、左手が腰をさする。
強く吸いついては束の間離れてをくり返す唇の隙間から、戸惑い混じりの吐息が零れた。
「や……っ、やめて! 貴方、誰? なんのつもり!?」
セレイラの唇から顎を辿り、首筋に吸いつく男。
その頭を押し退けようと両手でもがくが、男はびくともしない。
腰を上った冷たい手のひらが、厚手のシャツに潜り込んで。
暖炉の熱を残す滑らかな柔肌に直接触れる。
二人の体温の違いが、セレイラに「ひっ」と短い悲鳴を上げさせた。
男が満足げに目を細めて、自身の唇をペロリと舐める。
「ついでの食事、かな?」
「食……っ 私は食べ物じゃないわ! 離して! 出ていって!」
「怖い?」
男がセレイラの額に自身の額を押し付けて、静かに見下ろす。
シャツの中を探って
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