書の守り人
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く世界が、現実の静寂も熱も置き去りにして、全身にぶわっと広がる。
何物にも代えがたい、至福の瞬間だ。
この本の世界は、図鑑と違って現実離れしている。
魔法や、それを扱う人外生物、歴史上にも存在しない王国等々。
興味深いのは、これが販売されていた娯楽本ではなく、セレイラの一族が先祖代々受け継いできた謎の『日記』という点だ。
まだ街に住んでいた頃、祖母から大切にしなさいと言われて引き継いで。
以来二十年間、ほぼ毎日、何度も読み返している。
ご先祖様達もそうしてきたのだろう。
紙は所々傷んで、古書特有のなんとも言えない香りを放っていた。
追い立てられるようにページを辿る。
もう二十年の付き合いだ。
内容はほとんど暗記しているが、何度読み返しても新鮮に感じる。
書いた人物の感情が大海の波となって、絶え間なく押し寄せてくるのだ。
波にさらわれた読み手は渦に巻き込まれて海中に沈み、呼吸を奪われる。
かと思えば突然ふわりと上昇し、海を飛び出して風になる。
穏やかな空を舞い、雲と戯れ、唐突に地面へ叩きつけられてしまう。
何を言ってるんだと笑われそうだが、実際そう感じるのだから仕方ない。
記された出来事は現実離れしているが……仮に想像で書いたとするなら、書き手は相当頭が良いか、ネジがぶっ飛んだ人物だと思われる。
それほどの感情に満ちているのだ。
激情と言って良い。
ところで。
この日記に書かれている文字はいったい、どこの国の物だろうか?
祖母に教わって覚えはしたが、こんな字体は他で見た記憶がない。
古代文字の類いか?
それとも、後世の誰にも内容を知られたくなかった故の暗号か?
それを子孫が解いてしまったとか。
だとしたら書いた人物には申し訳なく思うが。
なんにせよ、綴られた一言一句が魅力的なのは変わらない。
暖炉の灯りだけを頼りに、不思議な世界を体感し続ける。
……ああ、ここだ。
長年疑問に感じてきた日付に、目線を一時ぴたりと止める。
この日を境に、書かれている文字が印象を変えるのだ。
上手くなったのか下手になったのかは基準が無いので判断できないが。
一文字一文字が明らかに大きくなっている。
強いて例えるなら……そう。
書いた人の手が故障したか、でなければ、目が見えにくくなってる感じ。
書かれている内容は、要約すると
『傷だらけの少女と出会ったので手当てをした』
程度のこと。
以降、少女に関する記述や、書き手自身に問題が起きたとの記述も無い。
それまでと同じ、非現実的な日常を過ごして。
数ヵ月の後に、まっさらなページへと様変わりする。
最後の一行を唐突に『こ
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