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ダンジョンにSAO転生者の鍛冶師を求めるのは間違っているだろうか
主人公の知らない話

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 「あら、待っててくれたの?」

 工房からメインストリートに繋がる路地裏の壁に寄り掛かっている椿を見付けてヘファイストスが言った。

 「違う。主神様が、ちゃんと仕事に戻らせるために待っておっただけだ」

 そのヘファイストスに椿は一瞥を与えて言い返した。

 「そんなこと言っちゃって。ヒロキが気になっただけじゃのいのかしら」

 ヘファイストスは背後から聞こえる怒鳴り声と笑い声に耳を澄ませて言う。

 「なわけなかろうが。それより、道すがらすべてを話してもらおうか、主神様よ」
 「話すことなんてほとんどないわよ。ただタケミカヅチのファミリアなら何か糸口を見付けられるかな、なんて思ってけしかけただけよ」

 背中を浮かし、歩き出そうとする椿の背にヘファイストスが呼び止めるように言う。

 「ふん、そんなことだろうとわかっていたが、何故そこまで彼奴(あやつ)に肩入れする?」

 足を止め、振り向かずに椿が問うた。

 「したかったから、それだけよ。まあ、私の思惑はあなたのおかげで水泡に帰したけどね」

 後半からヘファイストスの声音は面白がるようなものになっていた。

 「なんのことだ」
 「あら、惚けるの?今日来たのはヒロキのためでしょう?私は知っているのよ、あなたが昨日ヒロキの工房の前にいたって」

 飽くまで惚ける椿にヘファイストスは意地悪な笑みを浮かべながら背後から近付いて言った。

 「な、何故を知っている!」

 主神の言葉に椿は思わず、振り向いてしまう。

 「ふふっ、あなたがヒロキを気にかけているように私も気にかけているということよ」

 その反応に満足するようにヘファイストスはにこにこ笑って、固まる椿の横を通り抜けた。

 「て、手前は気にしてなどいない!」
 「はいはい、それより行くわよ。私には仕事がいっぱい貯まっているのよ」
 「だ、だから手前が連れ戻しに――」
 「言い訳は聞き飽きたわ、ふふっ」

 北東のメインストリートをご機嫌な神とその神にしどろもどろと言い分を連ねる団長が確認されたのは、常磐(ときわ)の知る由もない話だ。
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