暁 〜小説投稿サイト〜
ダンジョンにSAO転生者の鍛冶師を求めるのは間違っているだろうか
独白
[9/10]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
後に聞こえたミナトの声は、生きて、だった。
 生きなければならない。
 だけど…………どうすればいいのかわからない。

 「どうすれば……いいんだよ……………」

 完全に赤色の抜けた視界を絶えず流れ出してくる涙で揺らして、膝がくだけたように崩れ落ちた。
 脳裏に浮かび上がるのはデスゲームという地獄の中でも楽しかった眩しい日々。
 そして、もう手の届かない遥か遠い綺麗な思い出。

 「そんなの誰にだってわからないわよ」

 唐突なこの場にいなかった者の声に俺はゆっくりと顔を上げた。
 目に入るのはいつの間にか扉に背を預けて、腕を組んでいる少女。

 「答えなんてないんだから」

 その少女は続ける。
 目尻が赤くなっている。

 「そうね。答えられる者はもう皆ここにはいないんでしょう?」

 少女の後に続いてヘファイストス様が俺の前で膝を折って言うと、にっこりと笑って俺の頭を撫でた。
 俺は呆然としてされるがままだった。

 「ヒロキの仲間はもういない、いないけれど、あなたの中には残っているはずよ。その仲間達はどう言っているかしら?あなたを怨んでいるかしら?」

 その俺に語りかけてくる。
 その声を追うようにして眼前に浮かび上がる四人の姿。
 四人は並んで幸せそうに笑っている。
 端の一人、プレイヤー名がカマボコだった少年、が手を振りながら、振り返り、背後の光の中へ消え、
 端のもう一人、プレイヤー名がタケダだった成人男性、が突き出した拳の親指を上げてから振り返って、背後の光の中へ消え、
 中心のうちの一人、プレイヤー名がダグラスだった筋骨隆々の男、が腕を組んで一際大きな笑い声を上げてから振り返り、背後の光の中へ消え、
 最後の一人、プレイヤー名がミナトだった少女、が恥ずかしそうに控えめに手を振って、ゆっくりと振り返り、背後の光の中へ消えた。
 それと同時に視界は(ひらめ)き、再びヘファイストス様の顔を映し出す。

 「あ…………あぁあ……うううぅ」

 俺は首を垂らし、抑え切れなくなった嗚咽を漏らしながら、しばらく涙を床に落とした。
 その間ずっとヘファイストス様は俺の頭を撫でた。
 じっと俺とヘファイストス様を見る少女の視線に気付いて、実はすごく恥ずかしいことをされていると気付くのは、少しばかり後のことだ。


    ◆ ◆ ◆


 「したいことが見つかりました」

 俺は目の前に立つヘファイストス様に言った。
 頭の中には黒い靄も球体もなくなって、その分体が軽くなったような感じがした。

 「そう? なら、もう私の考えた対応策はいらないわね」

 ヘファイストス様は深い笑みを浮かべて言った。

 「はい。手間をかけさせました」

 
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ