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ダンジョンにSAO転生者の鍛冶師を求めるのは間違っているだろうか
独白
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…その間って鍛冶は」

 気付かぬうちに口にしていた。

 何故口にしたかわからない。
 もしかして鍛冶ができないことを懸念しているのだろうか。
 半年間鍛冶ができないことを俺がどうして懸念するのだろうか。

 「無理ね」

 ヘファイストス様は一言きっぱりとした声音で言った。

 「ですよね…………」

 最後の返答を聞いて俺は黙り込んだ。

 頭全体にかかるように広がっていた靄が次第に寄り集まっていくように感じた。
 さっき目の前に現れた黒い靄を見ただけに、寄り集まっていく光景が生々しく眼前に浮かんだ。
 それを言葉で表すなら、宇宙で(ちり)やガスが寄り集まって恒星ができるプロセスをシュミレートしているかのようだった。

 確かに身を隠せば、所属ファミリアが困窮している少女が俺にずっと構ってられないのだから、どこかでほとぼりは冷めるのだろう…………いや、だといいんだけど、それは今は関係ない。
 身を隠すのは別にいい。
 半年と言わず、一年でもいい、平穏に生きられるなら。
 だけど、その間鍛冶ができない。
 この事実に俺は少し、いやほんの(わず)か心が揺らいだように感じた。
 俺は素材を適当に選んでいるし、鎚も適当に振っているのだから、鍛冶になんて何の思い入れもないはずがないのだ。
 ていうか、何故俺は鍛冶師をしていたのかすらわからない。
 今まで何故こんなことが疑問にならなかったのかさえわからない。
 そんな俺が、

 「あら、どうしたの、ヒロキ、迷っているの?」

 何に迷っているのだろうか。

 脳内の少しずつ寄り集まっていく靄がゆっくりと霧状から固体に移り変わっていくのがわかった。

 そういえば、俺はこの都市に来て、ギルドに案内され、そこの受付で生きる道を二つ示されたのだった。
 一つは冒険者。
 もう一つは鍛冶師。
 そこで、俺は迷うことなく鍛冶師を選んだったのだった。

 「何に迷っているのかしら?半年間ぐらい外にほとんど出られないこと?それとも半年間ぐらい鍛冶ができないこと?」

 記憶に意識を沈ませていると、不意にヘファイストス様の柔らかな声が降り懸かってきた。

 「…………迷っているのでしょうか、自分にもわかりません」

 俺は力無く言った。

 気付けば意識の半分は(おぼろ)げな一ヶ月前の記憶、もとい固体になりつつある靄の中にあった。

 ギルドで紹介されたファミリアに行って、俺はヘファイストス様に出会った。
 神様という存在と初めて出会った瞬間だったけれど、全然何とも思わなかったのを覚えている。
 そして、そのヘファイストス様に導かれてある部屋に通され、剣を見せられた。
 鍛冶師でない俺でも一目でそれがただならぬ剣だと
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