暁 〜小説投稿サイト〜
逆さの砂時計
魔窟の森 3
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楽しそうに土を耕すリーシェ。その笑顔は無邪気な少女そのものだ。
 「三百、ねぇ。にしたって、随分甘やかされてる感じだが」
 「……リーシェは現在、里で唯一の女性体。これからエルフ族の母となる身だ。大切に護らなくてはならない」
 ネールの背中に向き直ったクロスツェルが、なんだかいろいろ問題が籠った発言にギョッとする。
 対してベゼドラは、愉快そうに笑い声を上げた。
 「なるほどね。アイツは白蟻の女王様か。里中がお相手とは、ご苦労な事だ」
 エルフは決して里に部外者を入れない。つまり、この種族は純血種。
 絶滅危惧種とまで言われた者達がどうやって今日まで一族を繋いで来たか、繋いで行くのか……当然、一に対して一で足りる人数ではない。
 再びリーシェの姿を遠目に見て背筋を凍らせた。
 実年齢はともかく、あんなに小さな子を種の保存に利用しようとしているのか。
 いや、全員同じ容姿ではあるのだが。
 「なんとでも言うが良い、部外者よ。それでも我らは絶えるわけにはいかないのだ」
 拳を握り肩を震わせ足を早めるネールに付いて行きながら、二人は真逆の顔色で森の外まで案内された。二人が入って来た方と反対側に抜けて、ネールはさっさと里に引き返す。
 その背中を複雑な表情で見送るクロスツェルに、けらけらと笑うベゼドラ。
 「アイツら、まるで変わってねぇんだな。元々女の数は少ないほうだったが、此処まで来てもまだ排他存続を貫くとか。バカだろ絶対」
 「……」
 通常であれば言葉を選びなさいと叱る場面だが、そんな気持ちにはなれない。所詮部外者が口出しする話でもないし、その行いを非難できる立場でもないのだが……。
 誇り高い、少し間抜けなエルフの少女の笑顔を思って、クロスツェルは森に祈りを捧げた。


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