14部分:第十四章
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第十四章
やはり美味い。街のスーパー等で売っているものとは違う。かなり質のいいパンであった。
「美味しいですね」
「はい」
「これで質素ですか」
「そうではないのですか?」
「いえ」
言いたいことがあったが言うのは止めた。どうも言ってもわからないだろうと思ったからである。
どうもこの学園はお金持ちしかいないようだと思った。それも本当のお嬢様ばかりだ。今の沙耶香はさしづめその白い鳩の中に入り込んだ烏であろうか。その清らかな鳩達を誘惑する烏だ。だがその鳩達を蝕む何かを探す烏でもある。誘惑し、同時に護る奇妙な烏であった。
二人は食事を済ませると顔と歯を洗い磨いて職員室に向かった。もう生徒達が学校にやって来ていた。
「早いですね」
「部活がありますから」
「ああ、朝練というやつですね」
「ええ」
絵里は沙耶香のそこの言葉に頷いた。
「うちの学校は部活動にも力を入れておりますから」
「成程」
「私も学生時代は楽しくやっていました」
「スポーツをですか?」
「はい」
にこりと笑って答えた。
「ソフトボールを」
「意外ですね」
「そうでしょうか」
「ええ、ちょっとスポーツをされるとは思いませんでしたから」
「これでも身体を動かすのは好きなんですよ」
「はあ」
これは本当に意外であった。絵里の身体のことはもう知っているがスポーツをしていたようには見えなかったからだ。最近身体を動かしていないだけであろうかとも思った。
「キャッチャーをやっていました」
「キャッチャーですか」
「はい」
これは彼女に合っていると思った。性格的なものである。
「そしてシスターミカエラがピッチャーでした」
「幼馴染みでのバッテリーですね」
「はい。シスターのボールは速くて」
実はソフトボールはかなり速く感じるのである。ボールが大きく、そしてマウンドとバッターボックスの距離が野球のそれと比べて狭いからである。また球威もかなりのものとなっている。
「受けるのに苦労しました」
「それはまた意外ですね」
「そんなに私達がスポーツをするのがおかしいでしょうか」
「いや、そうではないですが」
違和感があるのは事実である。
「それでも」
「文化部だと思われていましたか?」
「まあ確かに」
沙耶香もそれは認めた。
「それは否定しません」
「あの頃はソフトのことだけしか考えていませんでしたね」
「青春というわけですね」
「白球にかけた青春、と言えばキザでしょうか」
「キザというよりは少し古いですね」
沙耶香はそれを聞いてくすりと笑った。
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