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鐘を鳴らす者が二人いるのは間違っているだろうか
26.迷子のアニエス
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 そして最後の五つ。それは――ティズ自身のことだ。

「もしかしたら、冒険に出させてもらえないかもしれない……」

 ティズはカルディスラ政府公認の役人という扱いだ。当然彼が入ったファミリアは必然的にノルエンデの復興にも協力することになり、協力分の見返りを得ることになる。いわばティズは重要人物で金のなる木。おまけに故郷を失ったという過去を考えると、命の危機があるダンジョンに行こうとする姿は自殺志願者に見えなくもない。となれば当然止められるだろう。

 ティズはそのことをアニエスに指摘されるまで全く思いもしなかった。

 カルディスラを出た日の夜にしたエアリーとの話し合いの後、ティズとアニエスは少々ギスギスしながらも妥協点を探った。話し合いの結果、二人は「冒険の役に立たないことが客観的に証明されたらこの話から下りる」という事で決定した。
 とはいってもあくまで降りるのは冒険だけで、手伝い自体は続けて良いことになったのだが。

 短い間だが、彼女と話しているうちにティズはアニエスの覚悟の強さを感じ取った。
 例えどのような苦境に立たされても、彼女は未来のための行動をやめることはないだろう。巫女としての使命を捨てることも、やはりないだろう。その身を捨てて世界が救われるなら迷わず自分の身を差し出すだろう。

 だから、せめて彼女がその自らに課した責任に押し潰されないように一緒に戦おうと思った。
 だが、彼女の意思を尊重したティズに反してアニエスは頑なにティズが戦う事を拒んだ。

「エアリーはあなたの事を気に入っているようですが、これはクリスタル正教の巫女に課せられた使命です。別に貴方が戦わなくとも4人の巫女や信頼できる正教の騎士と連携すれば護衛もなんとかなるでしょう」

 彼女は反論しようとしたティズへ一気にまくしたて、止めとばかりにこう言ったのだ。

「貴方は、突然故郷を失ったことで強いショックを受けています。自分でも気づかぬうちに自らの命を軽んじ、自暴自棄になっているのではありませんか?」
「う………」

 全くない、とは決して言えなかった。
 事実、全てを失ったティズは全てを失ってでも悲願を達成しようと願った。
 それが自棄や自傷願望から来るものではないと、その時のティズには言いきれなかったのだ。

「……貴方はあの悲劇からせっかく生き残ったのです。しかし受けた心の傷は深い……生き急ぐような真似はせず、争いとは無縁の場所で養生することをお勧めします。それが……意気も絶え絶えに運び込まれてきた貴方の治療をした私の願いです」

 諭すような優しさの籠った暖かな言葉。
 本当は、その慈悲深く優しい声が彼女の本当の声なのだろう。決して邪険にしているのではなく、本当に巻き込みたくないんだと感じられた。
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