魔窟の森
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し、クロスツェルが歩ける道を作って行く。腐乱死体を持ち歩くのがよほど嫌なのだろう。
美意識……みたいなものだろうか。ベゼドラは腐る物を醜悪と言って避ける傾向がある。発酵食品を見せた時などは、それはもう面白いくらい顔を歪めて全力で拒絶していた。
発酵と腐蝕は違うのだが、神代に発酵食品は無かったと聞く。彼が理解できないのも仕方なかった。
「ありがとうございます」
ぶつぶつと文句を言い続けるベゼドラの後に付いて森の中へ入って行く。
密集して生える木々の葉に遮られているからか、森の中の方が歩きやすかった。奥へ進めば進むほど積雪量は減り、光が通らなくて薄暗いのに不思議と暖かく感じる。
「止まれ」
突然、ベゼドラがクロスツェルの前に腕を伸ばして動きを止めた。
首を傾げて彼の顔を覗くと、何処か緊張した面持ちで周囲の木を見回している。
「……なるほどな。まだ生きてやがったのか、アイツら」
「アイツら?」
「さっき言っただろ。此処は北の森で間違いない」
「……傲慢と自尊心を形にした絶滅危惧種が作った陰険な集落?」
クロスツェルが呟きながら木々を見上げると
「誰が傲慢と自尊心と陰険の塊じゃと!? この、無礼な不法侵入者共がぁあ!! ……あ?」
何かが、ひゅるるる……べしゃ! と、薄ら雪に顔面から墜落した。
独特な紋様を縫った衣装を身に着けた何かは、暫くうつ伏せで痙攣し……ムクッと起き上がって、二人を睨んだ。
「誰が傲慢と自尊心と陰険の塊じゃと!? この無礼な不法侵入者共が!」
「いや、言い直さんで良いから。」
「な、何を言うておる!? 今初めて口にした言葉であるぞ!? さてはお主、幻聴でも耳にしおったか! ふはははは、それも仕方あるまいな! 我ら上位種の聖なる気に当てられたのであろうよ!」
背筋をぴん! と伸ばして立ち上がった何かは、人間のような両腕を人間のような胴体部分に当て、人間のような両の素足を肩幅分開いて、人間のような顔を少し上に向け、声高らかに笑った。
人間とは思えない透き通るような白い頬が微妙に赤く染まり、腰まで伸びる純白の髪と一緒に、細長い耳と薄い金色の目が落ち着きなく泳いでいる。
「……ベゼドラ?」
何かご存知な様子の悪魔に目を向けてみると、彼は緊張を捨て去ってあさっての方向を見ていた。
「さて、そんな哀れなる下等な愚か者共よ! 我らエルフの聖なる森に侵入した罪、軽くはないぞ! 今直ぐ我らと」
「お怪我はありませんか?」
何かが二人にビシッと突き出した左手の人差し指を両手で柔らかく包み込み、クロスツェルが微笑む。
「雪が緩衝材になったとはいえ、痛かったでしょう? ああ、少し傷になっていますね」
見た目はあどけない少女の顔に付いた雪や泥を優しく
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