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逆さの砂時計
それゆけ! べぜどらくん。
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 「夜、ここで待ち合わせましょう」と、手を振りながらベゼドラを見送るクロスツェルの横で、少女が不安そうに彼を見上げた。

「大丈夫ですよ。障りがなければ、貴女の名前を教えていただけますか?」

 少女は、息苦しさを抑えるように肩で呼吸を整えながら、クロスツェルのコートの裾をぎゅうっと握り締めて答えた。

「……レネ」




「そんなら、ちょうど荷物運びの仕事があるぜ」

 役所に入ったベゼドラは、職と人との仲介役を専門とする部所の窓口で、特別身分証明を提示し、案内人から日払いの仕事を引き受けた。
 この、仕事探しから請負までの一連の流れは、路銀を稼ぐ為に各居住地でクロスツェルがしていたことだ。ベゼドラが働いた経験は無い。

 案内人が手配した紹介状を片手に、指定された現場へ行ってみれば。
 いかつい体型の男達がニヒルな笑みを浮かべて、ベゼドラを歓迎した。

「ようこそ、若人よ! 今日からは君も、素敵な運び屋だ。体を酷使して、良い汗かこうぜ!」
「うわ。うぜえ」

 思わず回れ右して跳び去りたくなったが。
 異様なほどねちっこいクロスツェルの説教に比べればまだマシだ……と、自分に強く言い聞かせつつ、男達から大人しく仕事内容を聴く。

 この日の荷物は、外国から海を跨いで届いた織物や家具などの生活用品。
 これらを、街中に点在する商家へ迅速丁寧に配達することが、ベゼドラに与えられたお役目だ。
 街内の一部を赤い丸で囲んだ地図と、商家のリスト、荷物の宛先リストを手渡され。
 庭付き二階建ての民家三軒が余裕で収まりそうな倉庫一棟の中に所狭しと積まれている荷物を、()()、託された。

 配達手段は、手引き式のリアカー一台、のみ。

「ウチには荷馬車が三台あるんだが、二台が過積載でぶっ壊れちまってな。人手が全然足りてねーのよ! よろしく頼むわ」

 いっそ全部ぶっ壊してやろうか。
 と思ったが、なんとか堪えた。

 ふつふつと沸いてきた感情は全部ロザリアにぶつけてやると心に決めて、荷物に手を掛ける。
 リアカーに積めるだけ積み、指定域の一番遠い場所から順に届けていく。

 一軒目から既に配達予定時刻が超過していた為、届け先で苦情を貰った。
 殺してやろうかと思った。
 二軒目にも少しの遅れがあったものの、淡々とした受け渡しで済んだ。
 三軒目は、ほぼ予定通りに届けて感謝もされた。
 当然だと思う一方で、お疲れ様と差し出された水がやけに甘く感じた。

 その後も着々と、ありえない速さで失敗一つなくやり遂げ。
 男達から称賛されまくったベゼドラは、明日も来いよと誘われつつ大幅に割り増しされた報酬を手に、クロスツェルとの待ち合わせ場所へと戻った。



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