月詠編 暗雲
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ミッドチルダ南部へと足を運んだ。そこはかつて……母さんと姐さん、そしてリニスが暮らしていた家があったからだ。私達の家……今は崩壊した時の庭園がまだ地上にあった頃、そこは草花が咲き誇る美しい場所だった。だけど長い時を経て再び訪れたとき、そこは何の整備もされておらず、人の手が入っていた建造物を草木が覆い尽くしている光景しか残っていなかった。
「何十年ぶりかに来てみたけど、ここにはもう何もないのね……」
「改めてここに来てよくわかったよ。お兄ちゃんのおかげで転生できた私だけど、それまで流れた時は決して戻らない……それが自然の摂理だって。リニスももういなくて、精霊となった私は、皆とは違う時を生きていくんだって実感したよ」
「私達は地球で新しい生活を始められた。色んな出会いの下、家族でやり直す機会をもらえた。変な言い方だけど、この場所も私達の事を心配してくれていたかもしれないから、こうして私達は元気にしているって伝えておこうよ」
「……そうね。彼曰く、この大地にも意思があるみたいだから、見守ってくれてありがとうとお礼を言いましょう」
科学が支配する世界では廃れて久しい“祈る”という行為を、私達は静かに目を閉じて行った。大地や太陽に超常的な意思が存在していて、人類や無数の命を見守り、育んできた事を私達はついこの前まで知らなかった。これまでのように、これからも変わらないものだと思い込んで……それを当たり前だと思い込んでいた。だけどお兄ちゃんと出会い、エナジーの力を……太陽の力を身に着けてから、私達は彼らが常に見守っていた事を心から理解した。
世界から恩恵を与えられる事を、今の人間は当たり前だと受け止め、感謝することを忘れてしまっている。世界を自分達の物だと思っている。次元世界の人間がエナジーを使えないのは、実はこれが大きな原因である。大地、世界、太陽へ感謝する気持ちを忘れてしまったから、彼らの力を認識できない……だから引き出せないんだ。魔法や科学に心酔し過ぎた結果、人間は世界のエネルギーを見る事が出来なくなってしまった。
「……魔法や科学は人類が自ら築き上げてきた力だから、多くの人間は無意識に絶大な信頼と自信を持っていた。だけどその力に頼っていては絶対存在に勝てない……世界と力を合わせないと立ち向かう事すら出来ない。私は元々研究者だから、その事実を受け入れるのは正直に言うと辛いわ。でもね……そのおかげで本当に大切なことを思い出すことができた。全ての命は尊い……早いか遅いかが違うだけで、死は避けられない運命。あの時の私はそれが受け入れられず、科学の力を使って死者蘇生に挑むという禁忌の域に手を出した。命の流れを否定する行為を行ったのだから、本当なら私は管理局などよりも先に、世界から罰を受けるべきだった……」
「母さん……だけど母さん
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