暁 〜小説投稿サイト〜
逆さの砂時計
不透明な光 4
[2/4]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
な風に喰われるのが嫌で暴れ出したわけではなく。
 自分達は全員喰われても構わないから、その代わりこの森の近くの屋敷に住んでいる男の、海辺の村の人達に対する暴挙を止めてくれと訴えていた。

 ベゼドラは露骨に嫌そうな渋い顔をしたが、実際に彼が魂を喰った瞬間を目撃してしまったクロスツェルが、せめて食べた分だけでもお返しするのが筋というものでしょうと説教した。
 耳を塞ぎ、目を逸らして逃げようとするベゼドラの背後から、それはもうしつこくしつこくしつこくしつこくしつこくしつこくしつこく(以下略)、話を聴いて差し上げなさい。と。

 熟練度が異様に高いクロスツェルの説教に根負けしたベゼドラは、嫌々で仕方なく、魂達が導くまま、森と平野の境に建っている屋敷へと侵入する。
 見た目は壮大で豪華な石造りの屋敷には、使用人と思しき屍が十数体と、悪魔憑きの男が一人。
 ついでに、複数の生命力を注ぎ込まれながらなんとか生き永らえている、抜け殻のような女が一人、居た。

 真昼だというのに、男は動かない女の体を夢中で抱いていた。
 男の中身が悪魔だとは一目で判ったが、それは思いもよらぬ光景で。
 ベゼドラは不思議そうに目を瞬き、それから、少しだけ笑った。

 高い柵も鍵も通用しないベゼドラにだけ屋敷の中を隅から隅まで案内した魂達は、裏口で待っていたクロスツェルと合流し、魂達が知る限りの過去を零から百まで懇切丁寧に説明する。
 屋敷の所有者や男と女と村の関係、魂達が屋敷の使用人だったことなど。
 その上で、二人が訪れたちょうどその日、紅い髪の少女が、男から本気で憎まれているとも知らずに嫁いでくるから、助けてあげて欲しいと願った。
 男は婚姻を利用して少女を屋敷に閉じ込め、人知れず殺すつもりでいる。
 けれど幼馴染である少女が殺されてしまったら、女がとても悲しむから。
 どうか少女自身の為にも、女の為にも、紅い髪の少女を助けて欲しいと。

 魂達は、男に悪魔が憑いていることを理解できていなかった。
 男は女を……実の妹を愛するあまりに、心が壊れてしまったのだと言う。
 病に人生を狂わされた、とても可哀想な子供達なのだと。

 とりあえず、屋敷の様子を窺う役目はベゼドラに任せて。
 クロスツェルは海辺の村まで紅い髪の少女を見に行くことにする。

 元々訪れるつもりだった海辺の村では、結婚式の準備が整いつつあった。
 木造の住宅が建ち並ぶ小さな漁村の民達は皆、船が出せなくて困っていたところを屋敷の男に助けられたと、この結婚を心から喜び、祝福していた。
 あんな器量が良い男に嫁げる少女は幸せ者だ、と。

 村と屋敷。
 人間と悪魔。
 少女と兄と妹。
 それぞれの事情の表裏を知ったクロスツェルは、複雑な思いで宿を探す。
 
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ