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黒魔術師松本沙耶香 妖女篇
19部分:第十九章
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第十九章

 その彼女がだった。さらに言うのだった。
「楽しむ為にね」
「やれやれですね」
 それを聞いて呆れた様に苦笑いを浮かべたのは速水だった。
「相変わらずです」
「貴方にはまだ幸運は振り向いてくれないようね」
「残念ですがこれです」
 依子に応えて懐からカードを出すとだった。それは恋人であった。しかしそのカードは逆になっていた。つまりそれは。
「失恋ね」
「今のところはです」
「今のところで済めばいいけれど」
 依子はその速水に対しても告げた。
「それで」
「機は必ず来ます」
 それでも速水はこう言うのだった。
「ですから気を落とさずにいますので」
「強いわね。それで貴方は時間までどうするのかしら」
「ルーブルにでも行きます」
 そうするというのだった。
「そうします。一度あの美術館には行きたい思っていましたので」
「ルーブルにね」
「そうです」
 そこに行くというのである。
「今から楽しみにしています」
「ルーブルもいい場所だけれど」
 沙耶香は今の速水の話を聞きながら述べた。
「今はいいわ。行くのは仕事が終わってからね」
「それから行かれるのですか」
「四日かかるというから。それだけ時間をかけてね」
 行くというのである。沙耶香は明らかにそれを楽しみにしていた。
 だからなのだった。後でというのであった。
「さて。それじゃあ」
「楽しまれにですか」
「ええ。行くわ」
 こう言ってであった。沙耶香は速水に背を向けた。そうして背中を向けたうえで彼に告げた。
「夜にね」
「はい、夜に」
 一時の別れを告げ合い離れた。沙耶香がそれから向かった場所は。
 古風な、バロックを思わせる左右対称の宮殿であった。庭は緑であり幾何学模様に飾られている。彼女はまずはその庭に入りそれからさらに進むのであった。
 白い三段の階段を登ると樫の重厚な扉があった。その扉を開けるとまずは木造の螺旋階段が目に入った。壁は白く床も階段も褐色で木製であることを窺わさせる。その中に入るとすぐにタキシードを来た初老の男が彼女のところに来て問うのであった。
「どの様な御用件でしょうか」
「二人」
 沙耶香はその男に対して告げた。
「三人でもいいわ」
「三人ですか」
「そうね。三人ね」
 沙耶香は数を定めた。
「三人。いるかしら」
「はい、今すぐに」
「わかったわ。それで部屋は」
「どれにされますか」
「貴方の勧める部屋でいいわ」
 任せるというのであった。
「ただ。お酒はね」
「はい、お酒は」
「ワインがいいわね」
 それだというのだった。
「それもシャンパンを」
「シャンパンをですか」
「二本」
 まずはこれだけ注文したのだった。
「それと」
「それと?」

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