A's編
第三十三話 後(2)
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ら、黙っていたことに対する罪悪感への贖罪かもしれないが。
それでも、少しでも彼女の救いになることを信じて、僕は車椅子に背を向けて、はやてちゃんの動かない足を取った。それだけではやてちゃんは、僕の意図をくみ取ってくれたのか、手を伸ばして首に腕を巻きつけてくる。背中にじんわりと人の体温を感じることができた。
「それじゃ、行くよ」
返事の代わりにぎゅっ、と腕の力を強めるはやてちゃんに応えるようにしっかりと身体を固定するとアースラのトランスポーターへと駆け出すのだった。
◇ ◇ ◇
まだ朝日が昇る前の海鳴町の空を僕とはやてちゃんは飛んでいた。正確にいえば、飛んでいるのは僕で、背中にしがみついているのがはやてちゃんだ。僕からはやてちゃんの表情は見えないが、険しい表情をしているのはわかる。
ここに来るまでに僕は彼女に事情を説明していた。説明といっても、僕からできる端的な事実を並べただけになってしまうのだが。
それだけでも、はやてちゃんにとっては衝撃的だったのは疑いようがない。なにせ、彼女は主であるにも関わらず、何も聞かされていないのだから。
もしかしたら、はやてちゃんの中ではこれからリィンフォースさんと過ごす日常を想像していたのかもしれない。あの状況では叶えられる現実だったのかもしれない。だけど、事態ははやてちゃんの意図しない方向へと流れていた。
「なんでや、リィンフォース」
背中ではやてちゃんが、独り言のようにつぶやいた。顔の位置が耳元にあるため、小声であろうとも僕には囁くような独り言も聞こえてしまった。
僕は彼女の問いの答えを知っている。リィンフォースさんから聞いて知っているからだ。だが、僕からその答えをはやてちゃんに応えることはないだろう。なぜなら、それは僕が伝えていいことではないからだ。リィンフォースさんの決断は、彼女が、彼女自身の言葉で語るべきだと思う。
そのための時間はもともと作っていたのだから。ただ、知られるのが一歩速かっただけだ。だから、僕にできることは最初に目的地にしていた場所に一秒でも早く到着することだった。
はやてちゃんを抱えてどれだけ空を飛んだだろうか。いつの間にか朝日はうっすらと頭を見せ始め、日の出を演出していた。時間にすれば一時間もたっていなかったかもしれないが、それでもはやてちゃんにしてみれば、かなり長い時間だっただろう。それだけの時間をかけて僕たちは、海鳴市が一望できる小高い丘の上へと足を下した。
地面には昨夜のうちから降り積もったであろう雪が敷き詰められており、早朝ということもあって誰も足跡を残していない新雪を踏むことができた。
だが、そんなことははやてちゃんにはどうでもいいだろう。彼女が目にしている
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