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鐘を鳴らす者が二人いるのは間違っているだろうか
25.西が東で南が北で
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町にいれば把握している筈だから、まず間違いなく町の外から来た人間だろう。
 だが、その表情は憂いというよりオロオロしていると言った方が適切そうな困り顔をしており、しきりに周りの建物を眺めている。その親とはぐれた子供のような仕草は様子はまるで――

「迷子か?」
「迷子っぽいですね」
「ま、迷子ではありませんっ!!」

 話が聞こえていたのか、少女が恥じらいを隠すように否定する。
 はて、あの少女………つい最近日記帳で見た気がする。というか、もしや――予想は出来たが確信がない。少し話をして、さりげなく聞き出そうとリングアベルは決める。とくれば……ガードが堅そうな彼女はリングアベルが話しかけるよりベルの方が効果的。まずはベルの様子を伺う。

「ご、ごめんなさい!なんだか困っているようだったのでてっきり……えっと、それじゃ何に困っていたんですか?」

 その問いに、少女はすぐさま弱気な表情を覆い隠して無表情になる。

「すこし、知り合いを探していただけです。貴方には関係ありません」
「え………」

 ピリッとした警戒心と、有無を言わさぬ拒絶の言葉。ベルも突然の拒絶に思わず戸惑い、助けを求めるようにこちらに視線を送ってきた。その表情には「僕、何か失礼なことしました?」と書いてある。他人の悪意や強硬な態度に弱いベルだから、こういう態度の女性とはどう接していいのか分からないんだろう。では、そろそろ俺の出番だ。

「ほほう。だが、知り合いはどうやらここにはいなかったと見える。果たして探しているという人物はどこにいるんだ?」
「場所は分かっています。この町の北西にある『冒険者通り』のギルド支部です。貴方がたに訊ねることはありません」

 これ以上話しかけるなと言わんばかりにブツ切りの返答だった。
 だが、それだけにちょっとばかり居た堪れない。
 なぜなら、今の一言で彼女の迷子が確定したからだ。

「………ええと、君がしきりに目線を送っているそっちは南東の通りなのだが?」
「冒険者通りは真逆の位置ですよ?」
「え?………あれ?でも、私はこっちから来た筈………あれっ?」

 改めて通りを見て、そこが全く見覚えのない場所であることに初めて気付いたように少女は動揺している。拒絶の鉄面皮があっという間にはがれ眉を八の字にして再びオロオロ困り果てるその姿に、二人は生暖かい目線を向ける。

(ああ、自覚がないタイプか……)
(気丈で美人なのに方向音痴だなんて……なんだかキュンとくる)
「な、何ですかその目は!?ちょっと通り過ぎてしまっただけです!こことは真反対が冒険者通りでしたね!?ならそれで話は終わりです!」

 少女は恥ずかしさを誤魔化してツカツカと反対方向に歩き出す。行き先が分かったのだからもう用はないだろうと
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