暁 〜小説投稿サイト〜
逆さの砂時計
不透明な光 3
[2/5]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
毒を盛った。
 たった一晩の凶行だった。

 兄に憑いた声は不思議な力で使用人達の体を操り、翌日からも日常を演じさせる。外部との連絡は総て使用人が断ち切り、妹も突然の病で死んだ事にして部屋に閉じ込めた。
 部屋に鍵を掛けられた妹は、事態が飲み込めないまま、兄に体を奪われてしまう。
 お前に命を分けてあげると言いながら壊れないように優しく触れる手が、妹の正気を失わせた。
 妹は心を閉ざし、声も出さず、呼吸するだけの虚ろな人形になった。
 妹の発作はそれ以降ピタリと止まる。
 だが、妹は笑わなくなった。
 紅い少女の話をしても、大好きなお菓子を作って見せても、全く反応しない。
 兄は嘆き哀しんだ。苦しくて苦しくて、息が詰まる。
 兄の発作は日に日に増えていく。

 少女の所為だ。

 ポツリと浮かんだ思いは急速に膨らんで、兄の心を埋め尽くす。
 アイツが苦しまないせいだ。アイツが苦しめば自分達は救われる。アイツが笑ってるから自分達が苦しいんだ。アイツが苦しむべきなんだ。

 兄を動かしていた声が再び問い掛ける。
 少女を苦しめたいか? と。
 兄は答えた。
 自分の何を引き換えにしても良いから、アイツを壊してくれ、と。
 声は承諾した。
 兄の魂を喰った悪魔は、解放された力で村に嵐を呼び、船を総て破壊した。
 決して海に出られないように。村が成り立たなくなるように。


 「これが、私が知っている事と、教えられた事の総てです」
 体を洗浄した後、クーリアの母親が所有していた貴族らしいドレスに着替えた二人は、他に誰も居ない応接室の椅子に向かい合う形で座っている。
 クーリアが淡々と語る真実は、屋敷中の豪華な装飾を恐ろしい儀式の道具だと錯覚させるほど、凍て付いた内容だった。レネージュの空色の瞳から、ポロポロと涙が溢れて止まらない。
 「……あたしの、所為……なの?」
 「いいえ、レネージュ様。決して貴女に罪はありません。総ては私達の……兄の仕業なのです」
 クーリアは静かに優しくレネージュの肩を擦る。
 「でも、あたしがあなたに木登りなんてさせなければ、グリークは……」
 「私が自分で望み、自分で選んだのです。それに、あの景色は今でも忘れられないのですよ。お忘れですか? もう一度一緒に見たいと話しましたでしょう?」
 「忘れた事なんて無いわ! 木の上で海を眺める度に、あなたを思い出してた! あなたは線が細くて、綺麗で……憧れてたもの……」
 レネージュは自分を莫迦だと責めた。
 グリークが仕事をしないのは貴族だからだと思ってた。
 クーリアが走らないのは令嬢だからだと思ってた。
 二人が綺麗なのも、時々日陰で横になってたのも、生まれや習慣の違いなんだと。
 話を聴いた今になって、その美し
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ