32部分:第三十二章
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い尽くした。それが終わった時沙耶香と速水はまだ宙の上に浮かんでいたが依子の姿は何処にもなかった。
「やったのかしら」
「どうでしょうか」
下を見れば蝶達の姿も消えていた。蝶の相手をしていた分身達は一つになり今沙耶香の影に戻った。だがそこにも依子の姿はなかったのであった。
「気配もしませんが」
「やった・・・・・・のではないわね」
「残念ね」
依子の声だけがした。
「私はまだ生きているわよ」
「そう、やはりね」
「では出て来られたらどうですか?」
「いえ」
しかし速水のその誘いは断ってきた。
「それはお断りさせてもらうわ」
「あら。何かあったのかしら」
「傷が深くてね」
依子の声は笑っていた。しかし姿は決して見せはしないのだった。
「こちらとしても残念だけれど。今回はこれでお別れね」
「やれやれです」
速水はその言葉を聞いて苦笑いを浮かべる。しかし依子本人が姿を見せないのでいささか拍子抜けした様子であった。それは沙耶香も同じであった。
「けれどまた会うことになるわね」
「ええ、またね」
沙耶香の言葉に答える。
「女の子達は離れたわ。魔界に入れていた彼女達はね」
「何処にもいないと思ったら。そこに囲い込んでいたのね」
「ええ。そこで魔力と肉欲の糧にしていたのだけれど」
「残念だったわ」
「それで彼女達は無事なのですか?」
速水が依子に問うた。その問いは彼も沙耶香も期待したものであった。
「ええ。皆で」
「そうですか。それは何より」
まずはそれに安心した。依子はさらに二人に告げてきた。
「美術館の外に皆いるわ。それじゃあ」
「今度は日本でかしら」
沙耶香がそう声をかける。
「会えるのは」
「さてね。けれど今度会った時は」
「わかってるわ。今度こそね」
それがマドリードで二人が交えさせた最後の言葉だった。依子はその気配も何処かへと消えさせたのであった。後には何も残ってはいなかった。
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