30部分:第三十章
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水の上から声がした。
「私の世界だから。あそこにいる私はあくまで幻影」
そこに依子がいた。上から速水を狙っている。
「私はここにるわ。そして」
全身に蝶を纏わせる。それで速水を包み込もうとしている。
「この蝶達はあそこにいるのもここにいるのも本物よ」
「そうですか。そしてその蝶で」
「魔界に旅立ちなさい」
蝶を舞わせてきた。
「この蝶で」
蝶達が速水に向かう。しかしそれを見ても彼は先程の依子と同じく悠然とした態度であった。そこに襲い掛かる蝶達を前にしてもだ。見ればその手には既にカードがある。
「蝶に対するならば私はこれです」
星のカードだった。それをかざすとそこから無数の光の星が飛び出した。それで蝶達を消し去るのだった。
そのうえで蓮の上に着地する。悠然と上を眺めながら依子と対峙する。上を見ているのは沙耶香も同じであった。じっと彼を見据えている。
「随分好き放題やってくれるわね」
沙耶香はそう依子に声をかける。
「絵の世界で」
「ダリの絵はまさしく魔術の世界」
沙耶香を見下ろしてそう述べる。述べる顔は仮面の如き邪な笑みになっていた。
「だからこそ私は選んだのよ」
「戦場、そして力を使いにね」
「そうよ。わかってくれたわね」
「わかったわ。それじゃあ」
今度は右手に青い雷を宿らせてきた。
「こちらも。本気を出させてもらうわ」
「青い雷を。どうするのかしら」
「簡単なことよ」
その青い雷を水面に投げ入れた。すると雷はその中で派手に暴れ狂いその中で力をさらに増して上に向かって無数の雷の柱を立ててきたのであった。
「戦い方は幾らでもあるのよ」
沙耶香はその雷の中で笑っていた。依子を見上げて得意げに笑っていた。
「貴女の世界の中でもね」
「そうね。けれど」
依子はその周りに相変わらず蝶達をまとわせている。その蝶達を動かせてきた。
「雷は。効かないってわかってるわね」
まるで無数の龍の様に水面から空へ暴れ狂う無数の雷達であった。上から下へ、下から上へ幾条もうねり依子に迫る。だがそれを見ても態度は変わらない。それには理由があった。それはやはり蝶の力故であった。
「ほら」
雷は打ち消された。やはり紫の蝶達は青い雷でさえも通じなかったのであった。
「効かなかったわね」
依子は青い雷が次々に消されるのを横目で見ながら述べた。白い顔と服の周りで青い光と紫の羽根が飛び散りその二つの色が彼女の顔と身体を照らすのだった。青と紫の色で白が染められる。
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