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黒魔術師松本沙耶香  紫蝶篇
28部分:第二十八章
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ダリの絵の集まりのところにやって来ていた。
 どれもが歪み、有り得ない世界が描かれた絵ばかりであった。時計に蟻、存在しない筈の場所に人がいて謎の影がある。その影を見ているだけで何かその影に誘い込まれて絵の中に入り込んでしまいそうである。沙耶香と速水はその中の一つの前で足を止めた。
 その絵はダリの絵にしてはかなり風変わりなものであった。紫の美しく妖しい蝶達が舞って人々を取り囲む。睡蓮に横たわる人々はその上で恍惚として蝶に身を委ねている。その蝶の絵を見て沙耶香は述べたのであった。
「この絵ね」
「これがですか」
「ええ」
 速水の問いにこくりと頷く。二人でその絵を見上げている。
「話に聞いたのはね。間違いないわ」
「紫の蝶」
 速水は静かな声で呟く。
「妖しくもあり、かつ美しくもある」
「その蝶達を操る者こそ」
「あの方ということですね」
「そういうことね」
 速水に対して答える。闇の中に紫の蝶達が羽ばたき舞っていた。二人はその絵を見て言葉を続けるのであった。
「後は」
「あの方ですが」
 二人はあの蝶を舞わす女を探す。そこで。
「来たのね」
 後ろから声がした。すうっと白い影が舞い降りてきた。
「ようこそ。よくわかったわね」
「ヒントを知ったせいよ」
 沙耶香は依子の方を振り向く。振り向いてから言う。身体は絵に向けたままである。


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