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異界の王女と人狼の騎士
第六話
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るあの瘤を潰せばどうなるんだろう? 俺は僅かな勝機を感じ、奴へと歩み出す。

 如月は煩悶するような表情を見せ、おもむろに大きく頷いた。体をこちらに向け、5本の触手をだらりと床に垂らして両手を挙げた。
「あ、あん。ごめん。ごめんです。僕の負けです。スミマセン、許してください」
 あっさり降伏宣言を始める。
「抵抗はやめます。月人さんに勝てない事が今解りました。僕は全面降伏します。だから好きにしてください……」
 急に力が抜けるようなことを言う……。
 突然の全面降伏にうさんくささを感じながらも、息絶え絶えとなっている少女の事が気になっていた。壁で体を支えて立ち上がってはいるが、かなり辛そうだ。
 如月への注意を怠る事なんて当然無い。奴にはまだまだ戦闘力が残ったままだし、俺に対する殺意が消えてないことなんてバレバレだ。隙をみて攻撃しようとしているのは間違いない。だけどなんかうまくやる気をそらされたみたいで、なんとも言えない気分。
「大丈夫か? 」
 と、彼女の方をみる。
「よそ見をしないで。まだ戦いの最中でしょう……。あいつは全然懲りていない……」
 言いかけて少女は蹌踉めく。
 慌てて俺は彼女に駆け寄ろうとする。当然奴への注意はそれてしまう。

 その刹那。
 このチャンスを待ってましたとばかりに、ダラリと垂れていた如月の触手が一斉に俺に向かって突き立てられてきた。速度ゼロからいきなり最高速度で突き上げられる槍の様に、5本の触手が明確な意志を持ち、俺の眼・喉・胸・腹をねらって突き出された。
 しかもそいつらは一直線に、あるいは大きく迂回しながら、または地面を這いながらとすべてがトリッキーな動きだ。さらに残りの一本が剣のように、俺の体を真横に薙ぎ払うように風切り音を立てて振り出される。
 
 油断した! 
 俺は自らの失策とそれに伴う代償に恐怖する。
 ……するはずだった。
 奴の攻撃は速すぎて肉眼では捉えられない速度のはずだった。でも、俺の左眼はそれをスローモーションのように捉えていた。しかも相手の動きはスローモーションなんだけど、俺の体は普通の速度で動く!
 俺の周りの世界の時間の流れが突然遅くなったようだ。その中で俺は普通に動ける?
 ゆっくりと近づいてくる殺意のエネルギーをフル充填の4本の触手を緩やかに交わしながら、両手を触手の中に突っ込み、手が届く範囲のプカプカと漂う瘤を手に取ると次々と握りつぶす。
 腐ったミカンを握りつぶしたような嫌な感触がするけど、我慢した。ぬるぬるした感触も嫌だけど仕方ない。
 手を引き抜いた後の触手にはまるで傷がない。どういう訳でこんな事ができるんだろうって思ったけど、考える暇なんてない。
 そして最後に横から斬るように来る最後の触手を飛び越え、足で瘤を蹴り潰した。
 
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