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逆さの砂時計
不透明な光 2
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れた兄に構わず、その横に倒れているレネージュの頬をぺちぺちと軽く叩く。
 「お目覚めになってください、レネージュ様! どうか……っ!」
 目を開いたまま正気を失っているレネージュの頭を抱え、必死で髪を、赤く穢れた頬を擦る。
 (しばら)くして、ぴくり、とレネージュの指先が動いた。
 クーリアの表情が、パァッと明るくなる。
 「……ァ、あ……」
 「レネージュ様! お判りになりますか!? 私です。クーリアですわ!」
 「……くー……リ、あ……?」
 「はい! 数年前まで一緒に遊んでくださいました事、覚えておられますか?」
 「……クー、リア……。クーリア……? 生きて、た……の?」
 レネージュの瞳に意志の光が戻る。クーリアは本当に嬉しそうに笑って頷いた。
 「どう、して? クーリアは死んだって……っひぃ!?」
 隣で息絶えたグリークを見て、レネージュはクーリアの体にしがみ付く。
 クーリアは震える彼女を優しく抱き締め、肩を擦った。
 「あれはもう、グリークではありません。兄は一年前の嵐の夜、悪魔に命を奪われて亡くなっているのです。グリークは数年前から悪魔と契約していたのですわ。私を、……生かす為に」
 「一年前……死んでる? 悪魔? 何を言ってるの?」
 純潔を乱暴に散らされ、目を覚ました瞬間に相手は死んでいて。死んだと思っていた少女が生きていて。
 レネージュは混乱を極める。
 クーリアは苦笑いを浮かべ、レネージュの体をそっと解放した。
 「総ては私達兄妹の体の弱さと、兄の邪なる願いが招いた事なのです。レネージュ様は不当に巻き込まれただけ」
 まだ震えているレネージュの両手を取り、クーリアは悲しげに微笑む。
 「順を追ってお話します。まずは、この部屋を出ましょう。私もレネージュ様も、このような汚れた姿では落ち着きません」
 「……うん……」
 クーリアに手を引かれ、よろめきながらベッドを降りる。
 立って歩けるのが不思議なくらいの激痛と目眩と倦怠感に襲われるが、ふと、捨てられたネックレスを思い出してベッドの反対側に回り込んだ。
 五枚の内、ちょうど真ん中にあった貝殻が真っ二つに割れている。
 綺麗な薄い緑色の貝殻は、心なしか光沢まで失われていた。


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