暁 〜小説投稿サイト〜
逆さの砂時計
不透明な光 1
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となく虚しくなるわね」
「人間問題に絡めて手に入れたか。ここのヤツはそこそこ賢いらしい」

 クスクスと肩を揺らして笑ってる。
 何が面白いというのか。

「生憎、俺達でどうにかできるのはアンタ一人に限られてる。今、この場で選んでもらうしかないが。喰われるのと逃げ延びるのと、どっちが良い?」
「……意味が解らないから、答えようがないわ」
「生きて村を見捨てるか、死んで村を助けるか」

 黒い人は、ビロードを思わせる紅い目でレネージュをじぃっと見つめ。
 冗談を感じさせない声色で問いかける。
 レネージュはしばらく無言で考え込み、真面目に答えた。

「生きて村を助けたい」
「強欲だな」
「その為に、ここに居るのよ。あたしは」

 黒い人は、口元に薄く笑みを浮かべる。

「なら多少の苦痛は我慢しろ。一日や二日じゃ喰い尽くされないだろうが、間に合うかどうかは運次第。うっかり殺されても俺を恨むなよ」
「だから、いったい何の話を……って、ちょっと!?」

 窓枠を蹴った影が、レネージュのほうを見ながら外側へと垂直に落ちる。
 焦ったレネージュが窓から顔を出すが、影は跡形もなく消えていた。

「い、いったい、なんだったの? 今のは」

 喰われるとか、死ぬとか、生きるとか。
 なんだか物騒なことを言っていた。
 レネージュは不気味なものを感じつつ、ベッドに戻って座り直す。

「……でも、ちょっと格好良かったかも。どうせ結婚するんなら、ああいうガッシリした人のほうが良かったなあ」

 今更愚痴っても仕方がないかと、両腕を天井に掲げて体を伸ばした瞬間。
 寝室の扉が開かれた。
 現れた幼馴染み……改め夫は、濡れた銀髪に着崩したローブ一枚という、見る人次第では黄色い悲鳴を上げそうな、艶めいた姿をしている。

「レネージュ」
「なんか、来るの早くない? 気持ち悪いんですけど」

 彼は嬉しそうな上品な笑みで室内に滑り込み、後ろ手で扉を閉めた。
 貴公子然としたその笑顔が、逆にレネージュを不審がらせる。
 彼女が知る幼馴染みは、彼女に対してだけは、こんな笑い方はしない。

「気持ち悪いは心外だな。ずっと、お前だけを見てきたのに」

 グリークが一歩近付く。
 レネージュはなんとなく、座らなければ良かったと後悔した。
 この姿勢では逃げようがない。

 ……元々逃げられないのだが。

「屈辱と快楽に溺れ、俺に赦しを乞いながら生きたまま死んでいく、お前のそんな無様な姿を眺めることだけが、ずっと、ずーっと楽しみだったのに」
「……っ!?」

 グリークの目が。海のような碧色が、急速に濁っていく。
 レネージュの背筋に冷たいものが這い上がった。

「…………あんた……誰?
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